高速道路の料金自動支払いシステム導入は値上げを招く

 今日付けの The New York Times に面白い記事が。「Technology Eases the Ride to Higher Tolls」(07/04/2007) によると、有料の高速道路の料金所において料金を自動的に支払うシステムが導入された地域とそうでない地域を長期的に比べると、はじめは通過料金が同じでも、しばらくすると前者の方が後者より料金が上昇しているらしい。調査をしたのはマサチューセッツ工科大学経済学部の Amy Finkelstein。
 従来は、係員に手渡しか機械にお金を入れるのかは別として、料金所では毎回その時の分の料金を現金を直接支払っていた。しかし近年導入が広がっている自動支払いシステム (Electronic Toll Collection, ETC) では、車に取り付けられた装置が料金所の設備と通信することで、財布を出さずとも自動的に料金を支払うことができる。このシステムを利用すれば現金を持ち歩かなくても良いし、いちいち財布を出したりお金をやり取りする時間が省けるため、利用者にとっての利便が向上し、料金所前での渋滞も緩和されるとされている。
 Finkelstein は、米国各地に設置された123カ所の自動料金支払いシステムについて、設置された時期・料金の変化・通過した車両の数・高速道路使用者における自動支払いと現金支払いの比率を調べた。その結果、全利用者のうち自動料金支払いシステム使用者の割合が6割を超えた時点で、自動支払いシステムを導入していない高速道路に比べて平均で3割も通過料金が割高になっているらしい。
 利用者にとっては、通過するたびに現金を差し出すのと比べれば、財布を出すこともなく自動的に支払いを済ませてしまう方が、実質的な負担は同じであっても、払っている料金をあまり意識しないで済む。これは、消費税の支払いをする度に税金を払っていることを意識するのに、それよりはるかに高い税率を給料から天引きされても意識しづらいことと似ている。払う側がそうなのだから、料金を決める側がそれに便乗して料金を上昇させやすい(反発を受けにくい)と考えるのは当たり前かもしれない。
 とはいえ、このことには他にもいくつか説明が考えられ、Finkelstein はそれらを検証している。まず、利用者が払っているコストは通過料金だけでないことを考えると、利便の向上や渋滞の緩和によって「面倒」「無駄な時間」といったコストが減る分、料金に上乗せしても構わないと利用者が考えているのではないかという説明。でも実際には、有料のトンネルや橋において片道ごとに徴収していた料金を(片道を渡った人は、大抵の場合同じトンネルや橋を使って逆方向に帰ってくるので)一方向だけ徴収するようにしたケースを調べると、2つあった料金所が1つになることで利用者のコストが低下しているにも関わらず往復の料金は上がっていなかった。すなわち、利便が向上したからといって料金が値上がりするわけではない。
 また、何らかの共通の理由が自動支払いシステムの導入と通行料金の値上げを同時に推し進めているのではないかという考え方もある。例えば渋滞が問題となっているからそれを解決するため(料金が上がれば、通行量が減ることが考えられる)だとか、あるいは収益を向上させようと料金所の無人化と値上げが行なわれている、などが考えられる。仮にそうであるとすれば、自動支払いシステムが導入された有料道路においては、システム導入以前の何年かにおいて他の有料道路より渋滞が深刻になっているとか収益性が落ちているということが考えられそうだが、とくにそういったデータは確認されなかった。
 一応言っておくと、もちろん自動支払いシステムの設備を設置するコストのせいで通行料金が値上げしたなんてことは絶対ありえない。なんでも1レーンあたりの自動支払いシステムの年間維持費は既存の料金所に比べて9割も低くて、ほんの数年内には設備投資の元が取れるらしい。だから本来なら料金が下がっても良さそうなものなのに、理由はともかく逆に値上げされてしまうことの方が多いなんて、なんだか理不尽な気がする。
 高速道路の通行料金はともかく、税金制度についても、見えにくいところでどうなっているのか気をつけなきゃね。