なぜかマトモな論文が1つだけあるバカバカ本

 前々から思っていたことだけど、「お勧め文献 @ macska dot org」のアップデートを行なっていて思い出したので書いてみる。


 みなさんご存知の通り、バックラッシュ系の本のひとつに『男女平等バカ』(宝島社)という、「タイトルの通り男女平等についてのバカな意見をバカが書いてバカが読む本」((c) chiki さん)があります。「年間10兆円の血税をたれ流す、“男女共同参画”の怖い話!」という副題から想像できる通りのくだらない本。
 でも、中に3ページだけ韓国のフェミニズムについてのレポートがあって、それが何故か超マトモな内容。論文タイトルは「儒教型家父長制をゆるがすフェミの声」で、著者はノンフィクションライターの菅野朋子さん。
 この本の他の論文であれば、「伝統的な家族形態をゆるがすフェミ」は危険な敵と位置づけられるところなのだけれど、この論文に限ってはむしろ伝統的な家父長制の方がいかに抑圧的だったかが強調されている。そして90年代以降は「経済的な余裕に伴い、従来のフェミニズムに加え、『女性の幸福を追求する』点に論点が移っていった」として、フェミニズムが韓国社会で受け入れられ、大きな影響力を持つようになっていること、そして「アンチフェミニズム」の声があまり聞かれないことなどが紹介されている。全体的に、フェミニズムにとても好意的だ。
 なぜこんな場違いな論文が掲載されているのか。調べたところ、菅野氏は『好きになってはいけない国。 韓国発!日本へのまなざし』(文藝春秋)という本の著者らしい。アマゾンのページによると、大学卒業後に新聞社・出版社勤務を経てカナダと韓国に留学、のち雑誌記者などを経てフリーになり、韓国在住(少なくとも出版当時は)。この「好きになってはいけない国」というのは、韓国人の女性が言った「日本は好きになってはいけない国なのに、日本の文化を好きになってしまった」という意味の言葉から取られているらしい。
 うーん、どう見ても普通のライターだ。もしかすると『男女平等バカ』の編集者は「好きになってはいけない国」というのを「韓国は悪い国だから好きになってはいけない、韓流なんてけしからん」という意味に誤解して、菅野さんのことを極右ライターと勘違いして記事を依頼したのかもしれない、とも考えたけど、そもそもどうしてあの本で韓国フェミニズムの議論をしなければいけないのか分からない。とゆーか、菅野さんはこの本がどういう趣旨の本だか分かったうえで寄稿したんだろうか? もし知ってて書いたなら、その超人的な「空気の読まなさ」を尊敬しちゃいそうです。
 というわけで、どなたか機会があったら菅野さんに事情を聞いてください。