アラスカ鉄道置き去りクイズ

 先週末はニューヨーク州イサカのコーネル大学で講演、帰宅した翌日にはドメスティックバイオレンス(DV)関連の会議でプレゼンテーションするためにアラスカへと、忙しい日程。ようやく落ち着いたところ。
 東海岸へは以前なら3時間半くらいで行けたはずなのに、今回は片道5〜6時間もかかった。燃料費高騰が原因らしい(燃料を効率的に使うために速度を抑えた)。機内では、食事だけでなく飲み物まで有料。まぁ無料だといりもしないモノを貰って結局捨ててしまったりするので無駄が多いから、有料化は基本的に良いことだと思うんだけど、水くらいは無料にしておいて欲しかった。
 旅程はフィラデルフィア経由でシラキュースに行き、そこからイサカまで車で1時間。しかし学生が道に迷いまくる。最終的にイサカにたどりついた時には既にかなりおそい時間だったけど、日本人がやっている弁当屋みたいな店で買ったカツ丼がおいしかった。
 コーネル大学での講演は、インターセックスクィア理論、障害学あたりを統合してごちゃごちゃと。会場には50人くらい。企画した学生によれば、コーネルにしてはよく入ったとのこと。講演後、アジア人学生数名と、アジア系コミュニティでクィアをアイデンティファイすることの困難について語り込む。
 続いてアラスカ州アンカレッジへ。会議の会場は市内から45分ほど離れたスキーリゾート(スキーはオフシーズン)なのだけれど、アラスカの大自然の美しさに圧倒される。すごすぎ。45分間窓の外を眺めていて全然飽きない。以下は携帯電話のカメラで撮った写真なので、本当のすごさを全然伝えていない。

 なんでDV会議がスキーリゾートで開かれるのか分からないのだけれど、スキー用のゴンドラリフトに乗って雪のまだない山頂にも登ってみた。その時たまたま霧が出ていて遠くは見渡せない状況だったのだけれど、大きな氷河が見渡せた。山の下では、地元に住んでいる友人が野生のクランベリーを採ってくれた。
 DV会議で学んだこととしては、まずアラスカのDVシェルターや相談電話にはアラスカ先住民の女性が多く助けを求めてきているのに、先住民のスタッフはほとんどいないこと。ポートランドでも黒人やラティーナの女性が助けを求めてくることが多いのに比べてスタッフにそれらの人種は少ないけど、それよりかなり酷い様子。会議にはほんの数ヶ月前にボランティアをはじめたばかりの先住民女性が一人参加していたのだけれど、そのことを白人がみんなで暖かく拍手するという、かなりイヤなシーンを見た。
 アラスカは原油を産出するので、税金がなく逆に住民が州から毎年少なくない額のお金を貰える(サラ・ペイリン州知事として人気だというが、こんな状況で不人気な知事がいたらその方がおかしい)。それを permanent fund というのだけれど、アラスカのDV業界では permanent fund syndrome という言葉が知られている。permanent fund を受け取った夫が、家族全員分のお金でお酒やドラッグに浸り、もうお前は不要だとばかりに妻や子どもに暴力を奮うことがあるのだという。統計を見たわけではないが、permanent fund が支給された後に被害の届け出が増えるというのは多くの人が感じていることらしい。仮にそれが事実だとしても、もちろん別の理由で届け出が増えている可能性も考えられるけど…(もしかしたら逆に被害者の側が permanent fund のおかげで逃げられるようになったので届け出た、とか)
 白人とのコンタクト以来の先住民の歴史についてのセッションを聞き、自分がどれだけアメリカという国の暴力的な過去を漠然としか知らなかったか再認識する。感染症を意図的に広め、土地を奪い、漁業資源を奪い、子どもたちを引き離して文化を破壊し、第二次世界大戦では一時的に日本に占拠されたアリューシャン列島の一部(アッツ、キスカ)の先住民をまるで敵国民のように扱い、いまでは石油パイプラインを通した補償金という形でお金だけは渡すけれども、それがさらなる文化破壊を引き起こしている。先住民のDV被害者を支援するためにはそうした歴史的背景を含めて理解する必要があり、そのためにも先住民団体と協力してこの問題に取り組むことが必要だ−−という主張に誰も異論は言わないけれども、現実にそれは実現していないし、おそらく今後も実現しないだろう。
 あと一つ、これはアラスカ関連じゃないんだけど学んだこと。どうやら最近の法改正により、DVシェルターも Fair Housing Act という連邦法の適用対象となるらしい。 Fair Housing Act というのはもともと住居における人種差別を無くすために作られた法律で、ほかにも宗教、障害、性別、出自などによる差別も禁止されている。シェルターで特に問題となるのは「障害」で、たとえば入居希望者に個人的な健康状態について聞くことは許されないことになる。あるいは、入居者の持つ薬を全部スタッフ室に預かっておいて、必要な時に取りに来させるということは(間違って子どもが薬を飲んだりしてはいけないので、という理由で)多くのシェルターで行なわれているが、それも違法。ほかにもかなり影響ありそうだ。
 それはともかく、アラスカの自然はとにかく感動的だった。こんどまたアラスカに戻ってくることがあれば、アラスカ鉄道で置き去りクイズをしたい。じゃなくて、普通にアンカレッジからフェアバンクスまで鉄道の旅をしてみたい。


 あ、ところで「初収穫」のエントリに出てるの、あれ大麻です。完全に合法に栽培しています。