在特会の「言い訳」が、田中康夫や川田龍平が国籍法改正に反対した理由とそっくりな点。

 「在日特権を許さない市民の会」(在特会)が、先日行なった「カルデロン一家追い出しデモ」への各方面からの批判を受けて「どちらが卑劣なのか」という記事をブログに掲載している。内容は大きく分けて「子どもに対してデモ行進を仕掛けた事」の言い訳と、今回の行動の意義を人道主義の観点から擁護するもの。
 前者については、カルデロン夫妻および支援者が先に娘を「楯にして」主張をしたのだから、かれらが悪い、というもの。でも、かりに在特会の人が「カルデロン夫妻は娘をメディアに出すべきではなかった」と言いたいのであればそう主張すればいいのであって、彼女が通っている学校にまで押し掛けて抗議活動をすることと整合性が取れていない。
 だいたい、在特会が卑劣なのは、既に帰国を受け入れて残された最後の時間を静かに家族で過ごそうとしている一家に対して出国直前にもなって「追い出しデモ」を仕掛けたからで、というかもっと遡ると、不法滞在ということをのぞけば10年以上も地域に溶け込んで真面目に生きてきた一家を犯罪者だとかゴキブリ呼ばわりして「叩き出せ」と大勢で押し掛けたからで、子どもを標的にしなければそれで良かったという話でもない。不法滞在者に対する政策のありかたについての議論を喚起したいのであれば、よりまともなやり方があるはず。
 それはともかく思ったのだけれど、

 不法入国・不法在留・不法就労というのは、桜井会長も言っておりますように、悪質な犯罪であります。そして、同時に、深刻な人権問題です。国際社会は協力して不法入国・不法在留・不法就労のビジネスを根絶しなければなりません。そのためにすべての移住労働者とその家族の権利保護に関する条約があり、その全前文に不正規な移住を行わせないようにすべき旨が書かれております。問題は不法入国・不法在留・不法就労のビジネスが犯罪者から犯罪者に継承されている事で、私達はこの悪の連鎖を何としても絶たなければなりません。今回の法務大臣によるノリコへの在留許可決定は、不法入国・不法在留・不法就労のビジネスを生き存えさせる道筋を与えてしまった事に他なりません。
 可哀想を演出しているノリコに同情し、カルデロン一家のゴネ得を通してしまえば、本当に悲惨な不法入国・不法在留・不法就労の人を増やしてしまう結果となり、もっと可哀想な子供がもっともっと多く生み出される結果になります。カルデロン一家に寛大な労働条件が許可されたのは、彼等に子供ができて、鉄砲玉として使えると判断されたからと考えるのが妥当であり、一般的に不法就労で働かされる人は上記条約にも触れられていますように非常に過酷な生活を余儀なくされます。私達はカルデロン一家の要求が満たされる事で、生存権すら奪われかねない悲惨な子供が何千、何万と新たに作り出されてしまう事実を直視しなければなりません。
在日特権を許さない市民の会 − 呟き:どちらが卑劣なのか

 この言い分って、国籍法改正に反対していた田中康夫新党日本代表の主張とそっくりでは。

この問題は、右も左も関係有りません。イデオロギーを超えた、人間の問題、日本の問題なのです。
12月5日(金)の参議院本会議で私 田中康夫は、「国籍法の一部を改正する法律案」に反対票を投じました。
DNA鑑定制度の導入と父親の扶養義務を明記せぬ今回の「改正」は、更なる「闇の子供たち」を生み出す偽装認知奨励法、人身売買促進法、小児性愛黙認法、即ち人権侵害法に他なりません。
新党日本 国会活動

 田中康夫氏が言っているのは、DNA鑑定を義務づけないまま国籍法改正を認めてしまうと、小児性愛者が東南アジアなどの子どもを人身売買によって買い取り、偽装認知して日本に連れて来ることができてしまう、ということ。しかし実際には、いかに反社会的な小児性愛者であろうと、偽装認知によって外国から子どもを「日本人として」国内に連れて来るというのは、リスクばかり高くて成功の見込みが低く、従って田中の言い分はまったく現実味のない、馬鹿げた空想でしかなかった。
 そういう架空の「人権侵害」を口実として、いまそこで起きている人権侵害−−日本人の子どもであるにも関わらず、日本国籍を得ることができない子どもが、国籍法改正までには百人単位で存在した−−を放置せよ、というのであれば、要するに田中氏は人権侵害も人身売買もどうでもよくて、とにかく法改正に反対する口実を欲していたのではないか、と勘ぐらざるを得ない。
 今回、在特会が突然「すべての移住労働者とその家族の権利保護」を言い出したのも、田中氏が国籍法改正に際して「人権侵害、人身売買」と言い出したのと同じく、しらじらしい後付けの口実に過ぎない。在特会の言わんとするところは、不法滞在者を放置しておけば、かれらが不当に搾取されたり、組織犯罪によって利用されて悲惨な事態が起きてしまう、とのことだと思うが、そうした事態が起きる理由は、端的にかれらの法的な地位が弱いからだ。カルデロン夫妻のように、地域社会に溶け込んで生活し真面目に働いている外国人に対する在留特別許可がより降りやすくなれば、かれらに対する不当な搾取は今よりはるかに減らすことができるはず。
 逆に、在特会のような連中が白昼堂々と街の中をデモして「犯罪外国人(ここでは、不法滞在以外に何の犯罪もおかしていない人のこと)を追放せよ!」と騒ぎ、在留特別許可というそもそも不法滞在者を救済するために存在する制度の適用を妨害することは、不法滞在者を減らすのではなく、かれらをより悲惨な状況−−たとえば、不当な搾取や犯罪の被害にあっても泣き寝入りせざるを得ない状況−−に叩き込むことにしか繋がらない。それこそ、在特会やその支持者の主目的なのだろうけどね。
 まぁ在特会の連中が、実際には人権も人道も考えていない、ただの排外主義者・差別主義者であることは今回のデモを見るまでもなくはっきりしているのだけれど、問題は田中康夫議員や、かれに同調した川田龍平議員らの方だ。かれらは、人権というものを尊重する立場のはずであるのに、その「人権」を、在特会やその筋の排外主義団体の圧力に屈して、それらに同調するための口実にしてしまって、そしてそうすることによって在特会みたいな連中に正統性を与えてしまって、平気なんだろうか。