在日コリアンの国籍剥奪を韓国政府の責任とする議論について

 エントリ「『在日はみな朝鮮系、韓国系日本人』になるために」への screw さんのコメントにお応えします。

screw 2009/05/07 16:24

日本政府が謝罪しなければいけないこと、それは、終戦後、それまで日本国籍を持っていた朝鮮半島出身者の国籍を、かれら一人一人の同意なく一方的に奪い取ったことだ。
「在日はみな朝鮮系、韓国系日本人」になるために - *minx*

日本は敗戦し1952年までGHQの占領下で国家としての独立を失っていた。一方、朝鮮半島では1948年に相次いで大韓民国朝鮮民主主義人民共和国が樹立、50年には朝鮮戦争が始まった。その前年の1949年10月7日、駐日大韓民国代表部はマッカーサー連合国司令官に「 在日韓国人の法的地位に関する見解 」を伝え、在日大韓民国国民の国籍は母国の韓国であり、日本国籍は完全に離脱したと宣言したのだ。日本国籍を離脱、つまり捨てさせたのは、日本側ではなく韓国政府であり、それに対抗する北朝鮮政府だったのだ。
http://www.geocities.com/deepredpigment2/dnchon4_006.html

あれ?なんか韓国政府と言ってることが違いますが?

 screw さんはこう書いているけれども、日本政府が国内に住んでいた朝鮮半島出身の日本国籍保持者から一方的に国籍を取り上げたのは、大韓民国朝鮮民主主義人民共和国が建国されるより前の、1947年だ。その年に外国人登録制度がはじまり、かれら国家を持たない人々は、便宜上「朝鮮籍」の外国人として登録された。繰り返すけれど、これは韓国や北朝鮮といった国家が成立する以前に起きた歴史的事実だから、それらの政府にはまったく責任がない。それが国際的に確定したのはもっとあとだけれどね。
 さて、「在日韓国人の法的地位に関する見解」の全文が見当たらないのだけれど、とりあえず要旨抜粋とされているものは見つかった。

在日韓国人の法的地位に関する見解」
 1949年10月7日付でマッカーサー元帥に通達された「在日韓国人の法的地位に関する見解」は、駐日韓国代表部大使が送ったもので、すなわち当時の韓国政府の公式意見です。 以下は要旨抜粋

大韓民国人はその所在の如何を問わず連合国民としての待遇を正当に受けるべきであり、日本の戦争目的で強制的に渡日させられた同胞たちが誰よりも先に連合国人の待遇を堂々と保有すべきだと見るものである」
「在日同胞に対して最初から定住するという自由意志により渡来してきたという見解から第一次世界大戦時のドイツの割譲地における国籍選択問題と同一視できると言うが、これは大韓民国を故意に謀略する日本人学者の悪毒な詭弁に過ぎない」
「絶対に初めから定住意志により渡日してきたのではない。従って国籍選択権云々はやはり絶対に不当な見解であると論断せざるを得ない。そして在日大韓国民の中に日本国籍の取得を希望するものが全くないとは言えず、万一いたならばそれは単純な“帰化”問題であり、国籍選択権と混同して錯覚してはならない。」
「1948年大韓民国政府の樹立と同時に当然の事ながら在日大韓国民は母国の国籍を創設的ではなく、宣言的に回復し、国連からの承認も国際公法上確認され、日本国籍は解放と同時に完全に離脱されたのである」

http://homepage2.nifty.com/marsh/siryo/korea01.htm

 これを読むと、たしかに韓国政府の見解はわたしの主張とは異なっている。でも、わたしは韓国政府の代弁者じゃないんだから、わたしの主張が韓国政府の見解と違うからといって、どこに不思議があるだろうか。「あれ?なんか韓国政府と言ってることが違いますが?」という問いには、「はい違いますがそれが何か?」と答えれば十分だろう。
 そもそもこれは韓国政府からGHQ及び日本政府への要望に過ぎないわけで、日本政府にはそれに従う義務はないし、現に従っていない。というのも、この文書において韓国政府は在日コリアン全員を即座に韓国籍として登録し、日本国籍取得を希望する人を通常の帰化希望者と同様に扱うよう要求しているけれど、日本政府はそのどちらにも従っていない。つまり、在日コリアンの扱いについては日本が自主的に決めていたと考えられるわけで、国籍剥奪の責任は日本政府にある。(ていうか、仮に韓国の言う通りにしていたとしてもやっぱり日本国籍を剥奪していたことになるが、その場合だって韓国政府の要求を受けて日本政府が決断していたのであり、やっぱり日本政府の責任だったという点では同じ。)
 面白いのは、韓国政府は在日コリアン国籍選択権を認めることが不適切である論拠として、かれらは日本の戦時動員によって強制的に日本に連れて来られた人たちだからである、という論理を主張していること。在特会やその同調者の書いたものを読んでみると、「在日朝鮮・韓国人の大多数は強制連行の被害者ではない、したがって特別の配慮は不要、在日特権を廃止せよ!」みたいなことが書かれているけれども、韓国政府の見解はむしろ逆のようだ。自由意志により日本に来たのであれば国籍選択権を与えても良いが、強制的に来させられたのだからこそ、日本政府はかれらを「朝鮮籍」の特別永住者としてではなく「韓国国民」として扱うべきだ、というのが韓国政府の主張だもの。
 以上の文章は、資料の要約が正確だったと仮定してのお話ですよん。全文どこかに載ってたら教えてください。