米軍の早期撤退を望みつつも、イラクから今すぐ米軍が出て行くのが許されない理由と同じ。

 過去エントリ「『在日はみな朝鮮系、韓国系日本人』になるために」から派生して、バジル二世さんのブログで続いている論点の続き。
 簡単に経緯をまとめると、わたしが「朝鮮半島出身者の日本国籍を日本政府が一方的に剥奪したことに対して謝罪すべき」と書いたことに対して、Josef さんが「『「謝罪』なんてのは論外で、解決を遠ざけるだけ」としたうえで、希望者には国籍を復活させるのが望ましい、と書いている。バジル二世さんも、日本政府が国際法上の義務を怠ったのであれば謝罪すべきだが、そうではなければ謝罪すべきではない、と書いている。
 また、わたしが「日本が一方的に国籍を剥奪した」と書いたことについて、Josef さんは「一方的剥奪」とは言えない、という立場から、朝鮮半島出身者にとってはそもそも「日本人」とされたことが屈辱的であり、戦後日本国籍から「解放された」というのが正しい、と書いている。
 Josef さんは「不当に押し付けたものは取り下げるのが道理」だと言うけれども、当人の希望を聞かずに一方的に取り下げるのは間違いだと思う。不当に押し付けたものだとしても、現にそれを前提として生活している人がいるのであれば、一方的に取り上げるべきではない。
 第二次世界大戦中に米国で西海岸に住んでいた日本人・日系米国人が住居を追われ財産の多くを没収されて(あるいはタダ同然で売り払わされて)収容所に押し込まれたことは知られている。ところが戦後、米国政府が収容所を閉鎖しようとしたところ、そこに住んでいた日系人たちの間から「追い出さないでくれ」と閉鎖反対運動が起きた。当たり前の話で、もとの住居も財産も失って連れて来られた僻地で、ようやくコミュニティを築いて貧しく厳しいながらもいくらかの安定を手にした収容者たちにとって、また突然の立ち退きを迫られるのはたまらない。
 日系人が収容所に押し込まれたこと自体は明らかに不当だけれど、だからといって収容所を閉鎖するから出て行けと突然言われても困るに決まっている。不当に押し付けたものを取り下げるなら、それなりに手順を踏んで、当人たちに不利益が起こらないような配慮を必要とするはずで、それをせずにいきなり「不当だったから閉鎖します」では済まない。
 収容所に押し込まれた日系人にとって、突然収容所が閉鎖されるということは、収容政策から「解放される」ことであると同時に、生活基盤を突然「奪われ」、住んでいた場所から一方的に「追い出される」ことでもある。同様に、日本国籍から「解放される」ことと、国籍を「剥奪される」ことは矛盾ではなく同時に起こりうるものだ。「解放」なのだから「剥奪」ではない、という論理は成り立たない。当人の意志により返上したのでも放棄したのでもなく、政府の方針によって一方的に取り上げられたのだから、それが剥奪であるという事実は明白だ。
 謝罪の是非そのものについて言えば、当時の国際法に違反していたかどうかで判断するのは間違いだと思う。理由は二つあって、まず第一にそもそも国際法というのは列強諸国が利害の調整のために発達させたものであり、植民地化された人たちに対する扱いの是非を国際法だけで判断することはできないと思うから。そして第二に、この問題は基本的に日本政府が誰に日本国籍を認めるかという内政問題であって、国際法に反しないからといって正しいということにはならないから。
 Josef さんは、日本による大韓帝国の併合によって朝鮮半島の住民は大韓帝国の国籍を一方的に奪われ日本国籍を押し付けられたが、朝鮮半島が日本から解放されたのだから国籍も元に戻すのが正しい、というように考えているみたいだけれども、それは間違っている。朝鮮半島が解放され韓国・北朝鮮が建国されたのだから朝鮮半島出身者はそのどちらか(あるいは「朝鮮籍」)の国籍が復活するのが正しい、というのは良いとしても、だからといって日本国籍を剥奪しなければいけない理由にはならないもの。
 日本政府が行なったことは、被害を回復するという意味で「元に戻した」のではなく、最初に一方的に大韓帝国の国籍を奪い、次にまた日本国の国籍を奪うという、二重の剥奪を行なっただけ。在日コリアンに「朝鮮籍」や韓国・北朝鮮の国籍を認めることと、日本国籍を剥奪することはイコールではないのに、Josef さんは無理矢理イコールで結んでしまっていると思う。
 ただ、Josef さんはこういうことも書いている。

良くないのはその後で、いったんチャラにした後、在日の動向により柔軟に対処するという姿勢があるべきだったと思います。60年代の日本国籍確認訴訟は大きなきっかけとなりえたはずで、裁判とは別に、国籍回復への道を開くという政治判断を下すチャンスだったでしょう。

 うん、これはつまり、特殊な歴史的経緯で日本に住んでいる在日コリアンの人たちに対して、本来果たすべきだった「戦後責任」を日本政府が果たし損ねた、ということですよね? 違うのかな。もし日本が旧帝国主義国家としての責任を放棄してきたという認識に立つのであれば、やはりそこをちゃんと謝って(というか、日本政府に非があることを認めて)からでないと、いきなり「国籍回復への道を開く」と言われても納得がいかないでしょう。