民間企業なら「だってトランスジェンダー嫌いなんだもん!」で済んでしまうという話

 先日のエントリ「トランスジェンダー公聴会で証言した人が雇用差別訴訟で勝訴」に追加。
 前エントリでも書いた通り、トランスジェンダーであることを理由にした差別は一部の州や地域を除いて禁止されていない。にもかかわらず今回の裁判で Diane Schoer さんが勝訴できたのは、彼女の採用を取り消した人事担当者が彼女を「女装した男性」として嫌悪感情を抱いたうえで、それを覆い隠すためにもっともらしい理由を繕おうとしたことが認定されたから。
 では他のトランスジェンダーの人たちも、差別されたら同じ方法で被害回復できるかというと、そうではない。そもそもトランスジェンダーに対する差別そのものは禁止されていないのだから、もし雇用者の側が「わたしはトランスジェンダーの人が嫌いだから雇わないのです」とはっきり言ってしまうと、それだけで裁判続行が困難になってしまう。
 今回、被告の側がそういう戦術を取らなかったのは、かれらが議会図書館という政府の一部門だったから。政府は民間企業と同じく差別禁止法のような法律に従わなければいけないだけでなく、民間企業とは違って「法の下の平等」という憲法上の原則にも従う義務がある。民間企業は「法によって禁止されていない限り」どのような社会集団を差別するのも自由だが、政府はとくに「このような差別を禁じる」という形で明文化されていなくても、特定の社会集団を優遇したり二級市民扱いすることはできない。だからかれらは「トランスジェンダーだから差別したのだ」という、民間企業なら通用する言い逃れができずに、あの変な「理由」を挙げるハメになったというわけ。