すげー投げやりなフェミニズム論争史の図

 Powell's Books の日本語書籍コーナーで、江原由美子金井淑子編『フェミニズム』を見つけた。この書店には、多分日本人の学生が帰国時に残して行ったと思われる日本語の古本がわりとある。
 ぱっと目次を眺めてみたところ、鄭暎惠さんの「フェミニズムの中のレイシズム」の章があったので、ほとんどそれだけ目当てに買ってきた。で、目次の次に掲載されていたのが下の図。



 下の「(注)」を読む限り、なんだか作図上の都合でやむをえず、たまたま欧米(の白人、異性愛女性によるフェミニズム)が中心になってしまいました、みたいな説明になってるけど、どこからどう見ても「欧米=中心/マイノリティ・アジア(日本)=周縁という図式」そのもの。いっそ「残念ながら現時点ではフェミニズム研究は欧米中心主義的である」とか認めてしまった方がいいような気もするんだけど。
 てゆーかさ、欧米のフェミニズムについては単純化されているとはいえフェミニズムの中でさまざまな思想や主張がどうお互いに影響を与え合ってきたか、ということが時系列の中で描き出されているけど、左右の端にある「日本フェミニズム論争史」や「レズビアンフェミニズム」「レイシズムエスニック・マイノリティ」の部分の投げやりさはいったい何? この構図で本を出すなら、「欧米主流派フェミニズム論争史」という書名で出版しろって言いたい。
 期待の鄭暎惠さんの文章も、別におかしなところがあるというわけじゃないんだけど、やっぱり「アメリカのフェミニズムの中にあるレイシズム」の問題だけしか出て来ない。「日本のフェミニズムの中にあるレイシズム」についてはどうなるんだと思う。
 もちろんその構図をちゃんと理解すれば、勘のいい読者は「日本のフェミニズムの中にあるレイシズム」やその他の分断に想像力が及ぶと思うのだけれど、以前ベル・フックス読書会の案内みたいなのを見たら、日本のマジョリティである日本人のフェミニストが、「同じ有色人種として」自分をマジョリティの立場ではなく黒人フェミニストの側に置いた解釈がしてあって驚いたこともあったり。
 でも、この図はまだ「きれいなところ」とか「混沌の闇世界」とか出て来ないだけ、まだマシかも。