「メディアはリベラル寄りに偏向」という UCLA 調査の問題点

UCLA政治学者 Groseclose et al.が学術誌 Quarterly Journal of Economics で発表する論文についてのプレスリリースを読む。 The Wall Street Journal などこれまで保守派だと思われていたメディアを含め、一般の米国メディアのほとんどがリベラル寄りに偏向しているという内容。もし事実なら驚きの大発見だけれど、こういう常識に反する研究は結論だけ読まないで調査手法も吟味する必要がありそう。
 メディアがどういう方向に偏向しているかということを調べるには、まず何が中立で何が偏向なのかをきちんと定義できなくてはいけない。この論文では「議会は全体として国民の中間的な意見を代弁しているはずだから」という論理で「議会における議員の発言」の総体を「中立」と定義し、それとメディアの報道内容を比べることでその報道機関がリベラル寄りか保守寄りかを調べている。
 何が中立で何が偏向かというのは個人の政治信条によってずれる可能性があるので、具体的な指標を設定したことは評価できる。だけど、議会の論議を中立とみなすのは手法としてかなり問題があるのではないか。例えば上院なら共和党が55議席に対して民主党が44議席民主党寄りの無所属が1議席)になっていて、共和党内のリベラル派と民主党内の保守派が相殺されるとして単純に計算するとリベラルと保守の議席差は10もある。すると当然、議会内の発言数は保守派の発言数がリベラル派の発言数を1割上回るわけで、全体として中立とはいいがたい。
 こうした歪んだ基準を前提にメディアの報道を調べると、ニュース番組が共和党の主張と民主党の主張を対等に報道するだけで「議会の発言数と比べて、リベラル寄りに偏向している」というコトになってしまう。しかし、過去二回の大統領選挙において共和・民主両党の候補の得票が僅差だったことからも分かるように、実際の国民の政治的立場は小選挙区制における議席数の差として表われるほど開いているわけじゃない。もともと議会の発言をそのまま国民の意見の正確な反映とみなしたことが間違っているわけで、この調査にはほとんど価値がないのではないか。
 個人的には、本当に問題なメディアの「偏向」は、右寄りとか左寄りとかじゃなくてセンセーショナリズムとかそっちの方向だと思うんだけどなー。