思ったよりさらに酷かった「メディアがリベラル寄りに偏向」論文

先日「これはおかしい」と思って批判した Tim Groseclose et al. による「ニュースメディアはリベラル寄りに偏向している」という論文について、リベラル系メディア監視団体 Media Matters for America が詳しい分析を掲載している。わたしが批判を書いた時点では論文が入手できなかったので UCLA によるプレスリリースだけを元にコメントしたのだけれど、実際の論文はプレスリリースから想像される以上に酷い内容だったらしい。
 Media Matters の分析によると、まず何をリベラルもしくは保守と定義しているかという点がおかしい。この研究では議員の発言とニュースの報道の中でリベラルもしくは保守の団体に好意的に言及している回数を比べているのだけれど、例えば左翼と見られがちな American Civil Liberties Union がやや保守寄りと判定されている一方、軍事・国防関係の研究を多くやっている RAND Corporation がかなりリベラル寄りとされていたりと、普通の感覚からかなり乖離している。
 また、団体だけが調査の対象となっている点も問題。例えば、リベラル側に位置づけられる黒人市民権団体 National Association for the Advancement of Colored People が新聞記事で取り上げられる場合、それに対応する人種差別主義団体が両論併記的に取り上げられることは滅多にないけれど、NAACP の主張に反対のことを言う政治家や評論家のコメントが引用されていることが多い。ところが、個人の発言は研究には含まれないので、NAACP と政治家のコメントを同時に引用した場合、その記事は「一方的にリベラル寄り」と判定されてしまう。そういうトリックがあるおかげで、保守系新聞の The Wall Street Journal までもが「リベラル寄りに偏向している」と判断されちゃっているわけ。
 Media Matters はさらにこの論文を執筆した研究者が過去に保守派シンクタンクから資金を得ていたことなども指摘しているけれど、メソドロジーさえしっかりしていれば本人がどんな政治信条の持ち主でも構わない。ところがメソドロジーが滅茶苦茶だから、やっぱり自分たちが望む結論を得るためにわざとこんなおかしなメソドロジーにしたんじゃないかという疑惑が高まる。
 まったくどの国も、おかしな情報操作をしようとする人は絶えないですねー。