世界日報「婚外子バッシング」のネタ元を調べてみた

ちょっと前の記事だけど、メーリングリスト上で取り上げられていたので。世界日報記事「『婚外子』を奨励する内閣府国民生活白書」(11月15日)より:

今年8月の内閣府国民生活白書」は、これらの欧米諸国では法律婚以外の事実婚・同棲(どうせい)が一般化していること、それに伴う婚外子(非嫡出子)の出生率が高くなっていることなどが合計特殊出生率の低下に歯止めをかける要因となっていると述べている。
 一部には、少子化対策婚外子が増えることを社会が容認すべきといった意見も聞かれる。
 ただ白書は、婚外子事実婚の増加が社会に与える影響には触れていない。米国の統計によると、婚外出生率が10%増えるごとに青少年の暴力犯罪が17%増えるという。
 また英国での調査では、親が同棲している家庭の子供は、伝統的な結婚をしている家庭の子供に比べて虐待に遭う割合が20倍も高い。離婚の可能性が増え、女性が肉体的・性的虐待を受ける危険性が高まるとの研究もある。

ここで引用されている「米国の統計」は、おそらく Niskanen WA (1994). "Crime, police and root causes." Cato Policy Analysis, no. 218. だと思う。このレポートを出した Cato Institute というのはリバタリアン系保守シンクタンクで、福祉削減を強く主張しているところ。以下はそのレポートから引用。

A 1 percentage point increase in births to single mothers appears to increase the violent crime rate by about 1.7 percent. This effect, of course, is a proxy for more general patterns of social behavior, not the direct effect, at least for a decade or so, of a current increase in births to single mothers.

世界日報の記事では1%のところを10%と置き換えることでなぜかスケールを10倍にしているし、レポート本体が「もちろん、犯罪の増加は婚外子が増えたことの直接の影響ではない」と明言しているにも関わらずに「婚外子事実婚の増加が社会に与える影響」と、まるで直接の影響があるかのように報道している。まぁ普通に考えれば直接の影響であるハズがないわけですが。
 さらに、「英国の調査」の方は多分 Whelan R (1993). Broken homes and battered children; a study of the relationship between child abuse and family type. Oxford: Family education trust. がソースだと思う。 Family Education Trust は「家庭の価値」を主張する英国の保守団体のようで、性教育批判・純潔教育推進・同性愛者が里親になるのに反対みたいなこともやってるらしい。このレポートをネットで読むことはできないけれど、こちらで販売しているらしい。その紹介文から引用:

Against all that we hear from the media, the evidence concludes that a married family is the safest environment in which to rear children. It is 20 times more dangerous for a child if the natural parents cohabit rather than marry. It is 33 times more dangerous for a child to live with its natural mother and her boyfriend rather than with natural parents in a marriage relationship.

本文が読めないので内容の評価ができないけれど、わたしが知る他の調査とはかなり矛盾する内容。レポートのタイトルで検索すると世界中の保守団体がこれを引用しまくっていて憂鬱になります。それにしても、世界日報の言う「離婚の可能性が増える」というのはどういうことかな。同棲しているカップルが離婚するとでもいうのかな。
 それにしてもどっちのデータも学術的に発表された論文ではなくて、かなり政治的に偏った団体のレポートから。ソースを明記せずに結論だけ載せたのは、それを読者にさとられたくなかったからかな?