婚外子と犯罪率の関連、その2

先に書いた記事への追加。一応、Cato Institute の Niskanen (1994) が言っている論理を説明しておくと、かれはさすがに「婚外子の増加が犯罪を増やす原因である」とは言っていなくて、「婚外子の増加に見られるような『道徳の崩壊』が、同時に犯罪の増加も引き起こす」という論理を主張している様子。
 それでかれが何を言わんとしているかというと、リベラル派が「犯罪は深刻な貧困や差別を背景として起きており、犯罪を減らすためには貧困や差別に対する社会政策的な対処が必要である」というのを否定しようとしているというわけ。すなわち、福祉や積極的格差是正措置を止めよと。しかし、福祉が充実しておらず差別の根強い社会においては「シングルマザーの出産」は貧困に直結しているから、Niskanen の言うことはリベラル派の主張とそれほど矛盾しない。ただ単にかれは「道徳の崩壊」があるからシングルマザーが増えるのだ、という部分を論証していないだけ。
 ただ、 Cato Institute は保守派と言っても政治に積極的に道徳を持ち込む宗教右派系ではなく、社会においても経済においても政府の介入はできるだけ減らすべきだとするリバタリアニズムを信奉するシンクタンクなので、レポートの中ではほかに面白いことも言っている。例えば、

  • 過去20年間において犯罪は増加していない。
  • 警察官を増やすことは、財産に対する犯罪(窃盗など)には有効だけれども、暴力犯罪を減らす効果はない。
  • 刑務所の職員を増やすことは、暴力犯罪を減らす効果がないばかりか、財産に対する犯罪のいくらかの増加を関連付けられる。
  • 所得が1%上がるごとに、同じ割合で犯罪は減少する。
  • 犯罪の増加に一番強く関連付けられるのは、男性の失業率である。男性の失業率が1%減少するごとに、暴力犯罪は9%も減少する。世界日報的に言えば、「男性の失業率が10%あがると暴力犯罪は90%も増加する!」(笑)

こういうことを通して Niskanen が主張しているのは、「犯罪を減らすためにはこうすればいいといった単純な方法は見つかっていないので、連邦政府が一律の犯罪防止政策を取るのではなく、それぞれの地域に権限を分散させるべきだ」ということ。しかし、かれのデータを使っても貧困や失業率の高さが犯罪と結びついていることは明らかなのだから、世界日報のしたように「婚外子の増加」だけを大きく扱うのは明らかにアンフェアな引用だ。
 ちなみに貧困と犯罪率の関連はリベラルの主張を裏付けかねないと思ったのか、Niskanen はかなりアクロバティックな論理を援用してこの関連を説明しいている。それは、「貧しいと女性も働きに出るので、昼間家に誰もいなくなり、従って空き巣が増える」(笑) 普通に「生活に困った人が家族を養うために盗みなどを行わざるを得ない状態にある」と解釈した方がはるかに自然だよね。かれは同時に、「毎週教会に通う人が増えるにしたがい、財産に対する犯罪の確率が減る」というデータを紹介しているけど、この論理だと家族全員が教会に行って家を空けたら空き巣が入るはずでは(笑)