「性分化障害」から「性発達障害」へ

 女性学関係者がやってる某秘密主義的メーリングリスト(笑)に、北海道苫小牧市が男女平等参画推進条例についてのパブリックコメントを求めている件についてのメール。条例案に「性同一性障害」だけが記載されているのに対して、「ゲイ、レズビアンなどの同性愛者、バイセクシュアル、トランスジェンダーインターセックス半陰陽・性分化障害)」など「他のセクシュアルマイノリティの方々」を含めるよう要望しようという話。それに対して送ったメールが以下。

 こんにちは、みなさま。
 各地の男女平等条例や人権条例により多くのセクシュアルマイノリティを含めるべきだという議論において、今回の要請や以前の世田谷区の要請に共通して気づいた点があるのでリスト全体に送ります。
 気づいた点というのは、「セクシュアルマイノリティ」の権利を条例に含めるべきだという文脈において、インターセックス半陰陽、性発達障害)を含めるべきだという主張をいったい「誰が行なっているのか」気になっているのです。
 わたしは「セクシュアルマイノリティ」条項にインターセックスを含めることに必ずしも賛成もしくは反対する立場ではなく、その地域及び周辺の当事者の声が反映されることが望ましいと思っていますが、実際のところ「同性愛者や性同一性障害の人たちを含めろ」という要求に追加で惰性でそうした要求が行なわれているように見えます。
 わたしが思うに、もし「インターセックスを含めろ」という要求をするのであれば、実際にインターセックスの当事者やその団体と協議したうえで、当事者自身が「加えて欲しい」と要望したのを受けてそれを支援するという形であるべきです。しかし現実は、対話すらせずに同性愛者やその他インターセックスの非当事者が「セクシュアルマイノリティ」全体のブローカーのようにして勝手にインターセックス当事者を代弁するという例が見受けられます。
 条例推進運動に関わる人には、そうした点についてもきちんとプロセスを踏んで活動するようお願いします。
 なお、「性分化障害」(disorders of sex differentiation) という用語ですが、それは一時的に使用されていただけで現在では「性発達障害」(disorders of sex development) が一般的です。よく分からないのですが、どうやら「性分化」という用語は遺伝子学者と分泌学者の間で定義が共有されていないのが理由だとか。これまた当事者不在の困った決定ですが、条例に含めるのであればより医学的に受け入れられた言葉が良いでしょう。


【10/01/2006 追記】

次に送ったメールから抜粋。

 ええと、誤解があったらいけないので説明しておきますが、わたしが知るのは米国や英国など英語圏の状況です。英語圏では、インターセックス当事者の間でも「セクシュアルマイノリティ」として権利を要求すべきかどうかで大きく意見が分かれており、中には強烈にそうした路線を否定する当事者も少なくありません。
 これはもちろん、欧米社会におけるホモフォビアが日本のそれに比べてより直接的で暴力的な傾向があり、インターセックスの当事者の中にもホモフォビックな人がいることもその原因の一つです。と同時に、インターセックスの運動は医学的に不必要な外科形成手術を当人の同意なく行なうことに反対することをその大きな目的の一つとしていますが、そうしたアジェンダを考えた時に、インターセックスを同性愛者やトランスジェンダーと同列に置くことは非常に危険であるという認識もあるわけです。
 というのも、ゲイであることを公言して生きているような人が一人もいないような保守的な田舎の街にもインターセックスの子どもは生まれるわけであり、セクシュアルマイノリティに対してほとんど何の知識も理解もない親が自分の子どもがインターセックスだと聞いて「ゲイやトランスジェンダーの一種」と認識したとすれば、「自分の子どもがゲイやトランスジェンダーにならないようにできる限りのことをしてやりたい」と善意で思い、反対意見をまったく考慮すらせずに外科形成手術を要求するということになりかねないのです。
 つまり、インターセックスの権利を「セクシュアルマイノリティの権利」の一部として推進することは、直接的にインターセックスの権利の侵害を招きかねない危険があるわけですね。
 しかし日本ではホモフォビアのあり方も違いますし、親の反応も違うでしょう。当事者の意志だって違って当然だと思います。だから、わたし自身はインターセックスを「セクシュアルマイノリティ」に含めることに賛成も反対もしませんが、条例などを推進するにあたっては地域の当事者の意見を聞いてくださいとお願いしているわけです。