売春者への蔑視発言をめぐる議論(5)

 本家エントリの前に、 id:hishimaru:20070323 さんへのお返事。

 売春者差別によって、売春をすることへの心理的なコストが高まります。
 お金は貰えるのはいいけれど、まわりの人から白い目で見られるのはイヤだなぁ、というわけです。
 すると当然、差別が存在しない状態よりも供給曲線は上がり、女の「性」の市場価格は上がります。
 この「性」の市場価格が上がることが、売春者差別のメリットです。

 一般に、リスクや不快感をともなう労働の賃金は上昇する。売春行為そのものにともなうリスクや不快感とは別に、売春が「まわりの人から白い目で見られているから」こそ追加でリスクや不快感が生じている面があり、それらのおかげで性的サービスの市場価格が暴騰している側面はたしかにある。「売春婦への偏見をなくせ」「売春を職業と認めろ」なんて呼びかけは当の売春婦にとっては迷惑である、と言う人もいる。
 わたしが以前から「『違法だからこそ』『偏見を受けているからこそ』成り立っている市場秩序や水準というものもあるので、急激な合法化や正常化は危険」といっている理由の一部もそこにある。合法化したり偏見を無くしたりすることで楽になる当事者も多いだろうけれども、逆に追いつめられる人の存在も考えなくちゃいけない。
 そうは言っても、もし「性的サービス」の値段が(その仕事そのものから来るリスクや不快感ではなく)社会的な蔑視や侮辱によって不自然に暴騰させられているなら、それを維持することが正しいことだとは思わない。「まわりの人から白い目で見られる」のを我慢すればそれで済むというならともかく、他の職業に転職するときに受ける差別や、家族や友人から孤立させられること、暴力犯罪の被害者になっても声をあげられないことなど、差別による弊害が大き過ぎる。
 もし売春が「まわりの人から白い目で見られない」行為になった場合、過当競争になって価格が暴落するかもしれない。一時的に、これまで売春で生計を立てていた人が追いつめられるかもしれない。でもそれは、市場適正化のプロセスの一部としてやむを得ないものだと思う。追いつめられる人がでてきたら、別の施策で保護すればいい。
 ただ、hishimaru さんは、売春者に対する差別がなくなれば性的サービスの供給が増えることを指摘しているけれど、需要も増える可能性があることを考えていないのでは。売春者が性的サービスのプロとして公認されるような社会になれば、買春者だって同じく「まわりから白い目で見られる」ことが現状より減るわけで、これまでなら買春に足を踏み出さなかった人が消費者として市場に参入する可能性もありそう。

確かに外側だけを見たら差別かもしれませんが、売春者に対する批難は、本質的に不当廉売者に対する批難の意味合いを含みます。これが差別の要件である「正当な理由によらず」に当てはまらないのではないだろうか?と思うのですが。

 ある不均衡な扱いが「正当な理由による」かどうかの判断は、人それぞれでしょ。何が「正当」なのかだなんて、客観的に決定できることじゃないもの。もちろん、何らかの基準を持ってきて「正当な理由とはこれこれこういうものである」と示すことはできるけれど、その基準を採用するかどうかはその人次第としか言いようがない。
 ていうか、もし不当廉売者への批難が正当化されるべきだとするなら、お金を取らずにセックスする「非売春婦」こそ差別されるべきだという話になるのでは。