ノーベル経済学賞受賞者をめぐる予測市場

 ノーベル経済学賞をだれが取るかで賭けが行なわれている。現在最有力は Elhanan Helpman と Gene Grossman で、その次に Paul Romer が来ている様子。経済学が研究の対象とする予測市場 prediction market が経済学賞の行方を題材として取り込むあたりは面白いのだけれど、最近話題にしているキャス・サンスティーンの前著『Infotopia: How Many Minds Produce Knowledge』によればこうした賞の受賞者を選ぶのは予測市場にとって苦手分野のはず。
 予測市場が有効に働くとされるのは、正しい答えに賭けた人が儲かり、そうでない人が損をするという仕組みによって、多くの人が少しずつ持つさまざまな情報や知識がアグリゲートされるから。ただ単に予測するだけなら何とでも言えるけれど、自分のお金を賭けるからには誰でも知り得る限りの情報を集めようとする。オッズは多数の人がどの選択肢にどれだけ賭けたかによって変動するので、結果として予測市場はかなり正確にさまざまな事象の発生確率を当てることができる。
 けれども、予測市場がうまく機能するためには、参考となる情報を多数の人がバラバラに持っているか、あるいは知り得ることが前提。例えば、まったくの偶然に左右される事象については、予測市場によっても結果を言い当てることは不可能だ。それが予測市場と普通のギャンブル(ただしポーカーや麻雀のように戦略が関係しないもの)の違い。
 そういう意味でいうと、ノーベル経済学賞の受賞者のように小さな委員会によって不透明な基準で選考されるものは、予測市場によってもあまり正確な予測は期待できない。似たような例として、サンスティーンはブッシュ政権が誰を最高裁判事に指名するかとか、誰を特定の大臣にするかといった問題において、予測市場が比較的無力(一般の評論家の予想より正確な予測はできなかった)であったことを紹介している。予測市場に参加する大多数の人たちは、ブッシュ政権内部でどのような議論が起きているのか知りようがないからね。同様に、ノーベル経済学賞の受賞者を決定する委員会の動きも、一般の人たちには知りようがない。まさか委員会関係者がインサイダー取引きをするわけもないしね。
 というわけで、選考委員会のみなさま、今年の経済学賞には予測市場に名前すらあがっていない人を選んで、予測市場の弱点を広く宣伝する事で経済学に寄与してください!


【追記】
 結果、予測市場は大外れ! さらに、著名経済学者ブロガーの予測も軒並み外れ。