双子研究×最後通牒ゲームによる、フェアネスの感覚が遺伝するかという研究

 かの PNAS (Proceedings of the National Academy of Sciences) にゲーム理論と遺伝子研究を組み合わせた怪しげな研究が。 MIT とスウェーデンストックホルム経済大学院の研究者らによる「Heritability of ultimatum game responder behavior」がそれ。
 この研究はゲーム理論でいう最後通牒ゲームを双子研究と絡ませることで、遺伝の影響を調べている。最後通牒ゲームというのは、例えばここに100ドルあったとして、それを二人のプレイヤーで分配するとしたとき、一方のプレイヤーがお互いの分け前を決定し、他方のプレイヤーはその分配を受け入れるか受け入れないかだけを決めることができるようなゲームだ。後者が受け入れを拒否した場合、どちらも何も受け取ることができない。
 ゲーム理論では、それぞれのプレイヤーは「相手が合理的に行動することを考慮したうえで、自らも合理的に行動する」ことが前提となっている。ここで合理的というのは、自分の利益を最大化するという意味。最後通牒ゲームであれば、後者のプレイヤーは自分の分け前がどんなに少なくてもゼロよりはマシだから極端な話1ドルしかもらえなくても受け入れざるをえないし、前者はそれを見越したうえで後者に1ドル以上与える必要はない(自分が99ドルを貰おうとする)。
 しかし現実に被験者を集めてこのゲームをやらせると、そもそも99ドルと1ドルといった分配を提案する人はほとんどいないし、あまりに不公平な配分を提案されたプレイヤーは、自分の利益を度外視してでも相手のアンフェアさを罰するために受け入れを拒否するケースが多い。このことは、ゲーム理論が想定する合理的人間とは違い、実際の人々は自分の経済的利益だけで動くことはないという例としてよく知られている。
 とはいえ、どの程度アンフェアな配分ならば受け入れ、どの程度であれば拒否するのかという部分では、当然ながら個人差がある。そこには、その人の生育環境や価値観、経済感覚が関係してきそうだけれども、この研究では双子として生まれた人たちを被験者として参加させることで(双子を組ませて最後通牒ゲームをさせるのではなく、それぞれ別のパートナーと組ませてやらせる)、遺伝子による影響を調べている。
 結果どうなったか。同じ家庭に育った双子であっても、一卵性双生児同士はそうでない双子に比べて、似た行動を取る割合が有意に高かった。つまり、遺伝子を共有した双子のあいだでは、そうでない双子に比べてシンクロ率が有意に高かった。
 このことは、人々の持つフェアネスの感覚に、遺伝子の影響がある可能性を示唆している。けど、論文も認めている通りこれは「フェアネスの感覚が遺伝的に決定される」というよりは、単に個人の性格に対する遺伝子の影響を再確認しただけのような気がする。第一、フェアネスの感覚を研究するなら、「自分がアンフェアに扱われた」という場面ではなく、「自分の利害とは直接関係ないけれど、他の誰かがアンフェアに扱われている」場面にどういう行動を取るかを調べるべきじゃないかと思うのだけれど。