自己啓発セミナーを嗤いながら、ハマりそうになった友人の本

 サンフランシスコに住む友人の Beth Lisick が新しい本の販促でポートランドに来たので見に行った。 Beth はスラム・ポエトリー出身の詩人・ストーリーテラーで、日常の出来事を独自のウィットとユーモアで面白おかしく伝えるのがうまい。
 新著は「Helping Me Help Myself: One Skeptic, Ten Self-Help Gurus, and a Year on the Brink of the Comfort Zone」といって、年間何百億円というお金が動くとされる自己啓発本セミナーに著者自身が一年間どっぷり浸かりまくってその顛末を記したものだ。
 具体的には、何十冊ものベストセラーを出した「こころのチキンスープ」シリーズで有名なジャック・キャンフィールドのセルフ・エスティームセミナーに参加し、男と女が生まれつきの違いを理解しあうことが大切だと説く「男は火星人女は金星人」のジョン・グレイに夫婦関係のアドバイスを伺い、成功者のパターンを分析した「7つの習慣ーー成功には原則があった!」のスティーブン・コヴィーのキャリア・セミナーを受講し、ついにはエクササイズ・ビデオの神様リチャード・シモンズがファン数百人を集めて開くカリビアン・クルーズ(船でカリブ海の島々を廻りながら毎日シモンズの号令でエクササイズ)に参加。その他にも、アメリカでは誰でも知っている超有名な自己啓発講師を一月ごとに決めて、徹底的に浸ってみたという。
 もともと著者はサンフランシスコのオルタネティブな価値観を持つコミュニティに出入りしている人で、アメリカの中流社会がハマる自己啓発本セミナーには縁がない。しかし彼女が選んだ著者・講師たちは、みなベストセラーを連発して大成功している超大物で、それなりに人を引き込む魅力もカリスマも持っている人たちばかりだ。もともと自己啓発セミナーに懐疑的だった著者も、いざ参加してみると講師に魅力を感じ、ハマリそうになる自分に気付く一瞬がある。そんな経験を書き綴った本が面白くないわけがない。と同時に、日本でも多くが出版されているこれらの自己啓発本の著者のセミナーの実態がどうなっているかというレポートとしても読める。


 本屋に来たついでに、「まっとうな経済学」ティム・ハーフォードの新著「The Logic of Life: The Rational Economics of an Irrational World」を見かけたので買ってきた。ハーフォードは今月末にポートランドに来るようなので、その時までには読んでおこう。
 でもその前に来週には懐疑論者で「Skeptic」編集長のマイケル・シャーマー(「なぜ人はニセ科学を信じるのか」著者)による新著「The Mind of the Market: Compassionate Apes,Competitive Humans, and Other Tales from Evolutionary Economics」のリーディング(この人って今は懐疑論者だけど、もともと怪しげな健康食品とかサプリメントにハマリまくっていた人で、これまで経済学関係の著書ないのにいきなり進化経済学とか扱って大丈夫なのか不安)と、あと「On Monique Wittig: Theoretical, Political, and Literary Esssays」編集者の Namascar Shaktini のレクチャーに行く予定(実はわたし、Wittig が亡くなる前に、相手がそんな有名人とは知らずに思い切り喧嘩しちゃったことがあったり)。それぞれ何か思ったことがあれば報告します。