知識よりも重要なこと

 ある人と話をしていて。
 バイセクシュアルの話が出たときに、つい冗談で「バイセクシュアルでもトライセクシュアルでも」と口にしてしまったことで、「なにそれ〜」という反応を招いてしまう。いや別に深い意味ないんだけど。
 異性愛者や同性愛者のように1つの性別を性的対象にするのがモノセクシュアルで、2つならバイセクシュアルだから、3つならトライセクシュアルでしょ、と言うんだけど、「その3つ目の性別って何なの」と聞かれる。でも、そんなの答えられないじゃん。
 そもそも、「3つ目の性別は何だろう」と疑問に持つということは、1つ目と2つ目の性別は分かった気になっているのだろうけれど、それが「男性」と「女性」であるという保証はないわけですよ。というか、「バイセクシュアル」という言葉を文字通り解釈するなら、バイセクシュアルの人たちが性的対象とする2つの性別が「男性」と「女性」であるかどうかだって定かではない。ましてや、トライセクシュアルの性的対象を「これと、これと、これですよ」と指し示すことなんてできるはずがない。
 似た問題。米国でトランスジェンダーについてのワークショップなんかをやっていて問題になるのが he とか she とかいう代名詞。基本的に呼ばれる相手の意志を尊重しましょうという話になるんだけれど、男性・女性以外の「第三の性」(「第四の性」「中性」「その他」など)を自認する人がいて、そういう人たちの中には第三の代名詞を使うよう希望する人がいます、と言うと、大抵の場合「第三の代名詞は何か教えろ」という展開になる。いや、何か1つの「第三の代名詞」があるわけではなくて人それぞれだと言っても、具体的にどういうものが使われているのか教えろと言ってきかない。
 わたしはいじわるだからそういう質問には極力答えないようにしてるのね。だって、第三の代名詞で呼んで欲しい人は普通そう教えてくれるはずだから、そのときになって本人の意志を尊重すれば済む話じゃん。肝心なのは、相手の意向を尊重することであって、さまざまな「第三の代名詞」の羅列を記憶することではないはず。
 あと、定義についても同じだなー。トランスセクシュアルトランスジェンダーの違いとか、ドラッグクィーンはトランスジェンダーに入るのかとか、そういうことを「知識」として知りたがる人が多いのだけれど、そんなことどうでもいいじゃん。重要なことは、相手が自分はトランスセクシュアルだと言えばそれを尊重し、トランスジェンダーと言えばそれを尊重して、個々の人が何を求めているか真摯に聞くことでしょ。よく、よかれと思って詳細な用語集みたいなのを配っているトランスの活動家がいるんだけど、「pre-op / post-op」(手術前か手術後か)みたいな業界用語を知識として教えるより先に、目の前にいるトランスの人の性器の形がどうかなんて他人のお前らが意識することじゃないっていうことを教えなくちゃ。
 こういう具合に「知識」ばかり身に付けたがる人たちは、おそらく人種差別問題であれば「非白人がどのように差別を受けているか」「どうすれば差別を無くすことができるか」ではなくて、「黒人を何と呼べば失礼に当たらないか」ばかりを気にしているんだろうな。知識なんて後からいくらでも学べるんだから、まず最初に「なにが重要なのか」について認識を改めて欲しいところ。
 ちょっとだけ本家の最新エントリに関連しているネタでした。