「オリンピックの 100m 走で日本選手が金メダルを取れない」のはゲノムに書き込まれた限界か?

 本家ブログ大隅典子氏の「人種の差」というエントリを批判したのだけれど、そのとき書かなかった小ネタ。大隅さんが「バリバリの生物学者である私から見たら、オリンピックの100m走で日本選手が金メダルを取れるような日が来ることは決してないと思うし、それは、ゲノムに書き込まれていることによる限界を示している」と書いている件について。
 Wikipedia によると、100m 走の男子日本記録は伊藤浩司という人の 10.00 秒らしい。そこで過去のオリンピックのゴールドメダリストのタイムを調べたところ、過去25人の優勝者のうち伊藤さんより速いタイムで優勝した人は7人だけ。つまり25人中16人は伊藤さんと同じかそれより遅かったわけ。もっとも最近では、1980年のオリンピックで優勝した選手は 10.25 秒というタイムを残している。
 年々競技のレベルがどんどん向上していることの原因は、コーチ技術や訓練技術の向上、栄養学やスポーツ学の進展、ランニングシューズなどの器具の機能性向上、社会が豊かになったことによるスポーツ選手育成予算の拡充や競技人口の拡大、あとあまり考えたくないけれどもしかしたらより検出が難しいドーピングの横行など、さまざまな社会的・経済的原因があるだろう。そのおかげで、現在の日本選手は30年前なら世界のトップクラスしか叩き出せなかった数字を出すことができる。
 1つだけはっきりしていることは、過去数十年くらいのスパンでゲノムが大きく入れ替わることはない、すなわち遺伝子に競技レベル上昇の原因を求めることは不可能だということだ。30年前の日本選手も伊藤さんも、遺伝子的に圧倒的な有利不利はないはず。かれらを隔てているのは、ゲノムの差異などではなく科学技術やノウハウやかれらがおかれた社会状況の違いだ。それを知ったところで今現在の日本選手が金メダルを勝つのに何の役にも立たないけれど、ゲノムに組み込まれた「限界」により日本人がオリンピックで優勝できないというのは言い過ぎであるということがここからもうかがえる。


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