ハブ&マングースショー及び白いブラウン大学報告

 4月4日、ブラウン大学のあるロードアイランド州プロヴィデンスへ。前回この街に来た時は病気で寝込んでいたので実質的に初めて。泊まったホテルになんだか有名らしいシーフードレストランがあったのでエビとホタテのパスタを食べた。おいしかった。でも高い(ブラウン大学に感謝)。3日間の滞在中、ホテル内のスターバックスで知る人ぞ知る裏メニューから毎日違うものを注文して怪しまれる。
 5日、まずブラウン大学の小児内分泌科医フィル・グラプソさんと会う。ローソン・ウィルキンス(小児内分泌科のパイオニアで、心理学者ジョン・マネーらと共同研究をしていた)直系にも関わらず90年代にいち早くインターセックス医療を変革する必要に気づいた医者のうちの一人。その経緯について聞かせてもらった。
 グラプソ氏の話によると、ジョン・コラピントによる「双子の症例」の記事が『ローリングストーン』に載ったちょうどその頃、グラプソ氏自身が80年代に担当し女児として育てることを薦めた子どもが、少女ではなく少年となって戻ってきたことがきっかけだったという。もちろん、当時はそれだけなら「たまたま例外がいくつかあっただけ」と済ませることもできただろうけれど、グラプソ氏はたまたまブラウン大学にいたおかげで、生物学者のアン・ファウストスターリングという相談相手がいたのが大きかったんじゃないかと思う。
 1999年に『Physician's Weekly』という医療業界内の雑誌でピッツバーグ大学のピーター・リー医師とインターセックス医療を巡って誌上討論し、医学界に衝撃を与えた。わたし自身もリー氏とは2002年にある大学で公開討論をしたのだけれど、それらの対話によって今ではそのリー氏もかなり当事者団体と近いところまで変化してきている。
 で、その後ファウストスターリングさんとも面会。彼女のオフィスの本棚には日本語版『ジェンダーの神話 “性差の科学”の偏見とトリック』も並べられていた。思えばわたしに北米インターセックス協会から声がかかるようになったきっかけは、彼女の昔の著作に典型的な「インターセックスを搾取的に利用しつつ、他の何かを主張する姿勢」を学術的に批判したことだったのだけれど、いまではそのファウストスターリングさんまでもがプラグマティックに「DSD(性発達障害)」という用語を肯定している。夜はマサチューセッツの方に用事があってわたしの講演に来られないとのことだったので、講演の原稿のコピーを渡しておいた。
 その講演はもちろんインターセックスについて。去年書いた「『インターセックス』から『性分化・発達障害(DSD)』へ」の続編として書いたもので、内容は昨年からのDSDをめぐる議論のまとめと、先日の「インターセックスと法」会議で思いついた新しいアイディアいくつか。そのうち去年の記事と統合させて1つの論文としたいなぁ。
 ちなみに、当日ブラウン大学内の別の場所では、リック・サントラム上院議員(昨年まで共和党上院序列3位)が講演してたらしい。翌日の大学新聞みたら、わたしの講演の記事はないのにサントラム議員の方だけでっかく載ってたよ。なんでも「全ての文化を対等に尊重するべきではない」「キリスト教文化は他のどの文化より優れている」だとか。酷過ぎ。そんなの聞きにいくくらいなら、わたしの方に来いと言いたい。サントラム議員が宿泊したホテルも同じだと聞いていたので、スターバックスあたりで見かけたらファンの振りしてサインでも貰ってこようと思っていたのだけれど、ついに遭遇しなかった。あ、そうそう、英語が分かる人は「santorum」で検索して一番上のページを楽しんでね♪
 しかし、ブラウン大学なのに人種はブラウンじゃなくてホワイトばかりだよ。
 6日、飛行機を2度乗り換えてアリゾナ州フラッグスタッフへ。フィニックスからフラッグスタッフまで乗った便のフライトアテンダントのおねーさんのアナウンスがとてもおもしろかった。「1963年以降飛行機に乗った方のない方には驚きの新発明、シートベルトの使い方をお見せしますーーいつでも拍手をどうぞ」「緊急時は座席のクッションを取り外せば水に浮かぶ救命具になりますーーここから目的地までは砂漠が広がっていますが」「緊急用の出口がどこにあるのかご確認くださいーーここテストに出ます」などなど。
 到着したのは、一日5便フィニックスとの往復があるだけの小さな空港だった。グランド・キャニオン空港という別名を名乗るくらいだから観光客で賑わっているのかと思ったら、実はグランド・キャニオンまで車で1時間以上かかるらしい。それって詐欺じゃないの? 誰かが「前にテレビで見た、ジョン・トラボルタの豪邸にある個人用の空港の方が大きい」と言っていたのに笑った。てゆーか、まだ9時なのにレストラン全部閉まってるじゃんかよこの街。砂漠だと思ってたのに高地だからやたらと寒いし。
 7日、ハブとマングースの対決当日。正午から始まって夜の9時まで続く大きなイベントで、反売買春/反ポルノの昔ながらのラディカルフェミニストがオープニングで、わたしがクロージング。のだめちゃんの着ぐるみがかわいかったので、わたしがマングースでラディカルフェミニストさんがハブということにしとこう。
 で、そのハブなんだけど、もう20年もずっと同じプレゼンやってるだろう、みたいなスライドショーをやって、それだけ。「売春したい女性やポルノに出演したい女性はどうなるんですか」という質問に、「わたしたちみんな父権制社会の影響を受けているから、そうした影響がなかったとしたらそうは思わなかったかもしれない」と答えていた。それはともかく、自分のレクチャーだけやってさっさと帰っていったのはかなり印象悪いのでは。わたしはちゃんと一日中学生たちといろいろ話をしていたんだけど。
 それに、後から聞いた話によると、そのラディカルフェミニストの人は、空港までの送り迎えにリムジンを寄越せと要求してたらしい。リムジンって何よそれ〜。結局、主催者がお金を出すかわりに、彼女が自分でレンタカーを運転することになったらしいけど、その件でイライラしている主催者に気づかず帰り際に「一緒に写真撮る?」と強引に主催者の学生と記念写真におさまっていた。
 わたしのトークは、前にも書いておいたとおり性労働者運動について。反売買春陣営側からの異論があるかと思ったけど、意外にもなかった。まぁ、わたしは売買春の今現在のあり方にはいろいろ問題があると言ってるわけだから、売買春礼賛論者でもないしね。
 8日深夜帰宅。たまっていたメールに返事を書いているだけで朝になる。明日の昼にはモンタナ大学に行かなくちゃ。