サイボーグとインターセックス@米国カルスタ学会 in ポートランド

 昨日からポートランドで開かれているカルチュラルスタディーズ学会に参加。今日の目当てはサイボーグ理論(分からない人は、「サイボーグ」「ハラウェイ」あたりで検索しても、それで見つかる本を読んでも、やっぱり分からない確率大)をインターセックスに適用するという趣旨の論文が発表されるというパネル。タイトルから判断すると、いかにもカルスタ系の学者が頭の中でインターセックスという概念(人間ですらない)をいろいろこねくり回して自己満足に浸るタイプの論文だろうなぁと思っていたのだけれど、実際のところ全く違った。嬉しい驚き。
 発表したのはサンノゼ州立大学の Maura Daly さん。もともとサイボーグ理論で博士論文を書いたこともあり、それをうまく応用できそうな対象だと考えてインターセックスについて調べてみたところ、実際にはそんな単純な話ではないと気付いて、本当にサイボーグというメタファーをインターセックスに適用するのが適切なのかどうか悩むに至った、という。学者というのは一旦ある理論的立場にコミットしてしまうと、何を見てもその立場から解釈しようとしてしまうもので、それをきちんと疑うことができたという点は素晴らしい。ていうか、ダメな学者のインターセックス搾取を批判したわたしの論文も彼女は読んでいたから、わたしのせいかもしれないけど。
 サイボーグ理論がインターセックスにどの程度適用できるか、どういう部分でそれが不十分か、という話も面白かったのだけれど、当事者らの運動により「より良い医療プロトコル」が実現するにつれ、これまでよりさらにインターセックスが医療化されるという問題についても、認識を深くできた。これは DSD (Disorder of Sex Development)/性発達障害という言葉の是非云々だけの話じゃなくて、例えばある種の手術に反対するために「性生活に重要な感覚が失われる」ことを挙げるとすると、それが既に医療のロジックに踏み込んでいる。
 その他もろもろ、会場近くのメキシコ料理店に場所を移して2時間くらい話をしてしまった。食事はおごってくれたけど、あれだけ情報提供すれば研究費としておとしてまったく問題ないでしょう(笑) とにかく、彼女には「自分はサイボーグ理論のインターセックス適用をしようと思ってインターセックスについて調べ出したが、結局それは不適切だと感じるようになった、なぜなら〜」みたいな論文を出版して欲しいな。「不適切だから書かない」というだけじゃなく、不適切だと判断した経緯まできっちり書いてこそ、後の研究者のための知的な蓄積になるわけだから。