臓器移植のために患者の死期を早めようとした医師

 Los Angeles Times 記事「Transplant surgeon charged with trying to hasten patient's death」(07/31/2007) を読む。カリフォルニアの病院で臓器移植専門医が、心身の障害を持つ男性に対して、他の患者に移植するための臓器摘出を目的に「死亡を早める」薬剤を注入した疑い。
 報道によると、男性は昨年1月末に施設で意識を失っているところを発見され、生命維持装置に繋がれた。しかしその5日後にはこの医師の指示により、生命維持装置が外されるとともに、通常の医療ではありえないほど大量のモルヒネと鎮静剤が男性に与えられた。さらに、本来なら患者が死亡後に臓器保持のために使われる防腐剤が、生きているうちから投与された。
 しかし男性は臓器が損傷しないための限度とされた30分以内に死亡しなかったため、臓器移植しないままもとの治療室に戻され、翌日早朝死亡した。これらのことは、男性の主治医を含めた6人の人がその場に居合わせながら起きてしまった。
 これは移植医による殺人事件のように思うのだけれど、現在この医師が追求されている罪は「虐待」「有害物質の投与」「正当な医療的理由によらないモルヒネ使用」だけで、殺人罪どころか致死罪にすら問われていない。裁判において「本当の死因は何だったか」を争うのが難しいから(一応自然死として判定されている)だと思うのだけれど、不十分に感じる。
 こういう事件があると、やっぱりいざという時「臓器移植に同意します」と表明している人は早々と殺される危険があるのだなぁと感じてしまう。そして、もし同じように感じる人が一定数いて、そういう人たちが臓器ドナーとなることを避けるようになれば、移植を受ければ助かるはずの命がさらに失われることになるかもしれない。するとさらに臓器の必要性が高まって、さらに今回の事件みたいなのが多発して…と、悪循環しかねない。
 基本的に臓器移植は悪いことではないと思うのだけれど、透明性と公平性が担保されないことには、とくに障害者にとっては、いろいろと問題の元になりそうだなぁと思った。