トンデモ保守メディアとその信者はどの国も同じ、という例

 以前エントリ「クォリティーフェミニズムってなんだよ」でブログ「苺畑より」に出てきた間違いを軽く指摘したけど、その苺畑カカシさんから(間違いは認めつつ)反応をいただいた。

幸いなことに私の間違いを親切に指摘して下さった*minx* [macska dot org in exile]というブログがある。このブログ経営者のmasckaさんという人は、そのブログの内容を読む限り、オレゴン州ポートランド在住で、女性学(特に性に関する)専門の教授らしい。
http://biglizards.net/strawberryblog/archives/2008/01/post_622.html

 いや、過去に非常勤講師をやっていただけで、「教授」とは地位も給料も全然違いますが。

しかしアメリカのフェミニストを見慣れているカカシからみるとmasckaさんは典型的なアメリカの左翼系(多分共産主義者レズビアンフェミニストに見える。いやいや彼女が同性愛者だという言っているのではない。私がこれまでに遭遇したそういう部類の人に似ている、といっているだけだ。

 この人がレズビアンフェミニストを見慣れているとは到底思えないけどなぁ。わたしはフェミニズムの中でも、レズビアンフェミニズムと根本的に対立する立場なんだけど。
 一応念のために言っておくと、レズビアンフェミニズムとはレズビアンたちによるフェミニズムではないレズビアンフェミニズムというのはラディカルフェミニズムの一派で、主に異性愛者の女性たちが、レズビアンという存在を自分たちに都合のいいように勝手に解釈し、植民地化して名乗ったものであり、本当にレズビアンの女性にとってはかなり迷惑な思想なのね。ある著名なレズビアンフェミニストが「わたしにとってレズビアンになることは大変だった、なぜならわたしは男が好きで、男とセックスするのが大好きだったからだ」と言っていたことに典型的。
 まぁレズビアンフェミニズムという異性愛者の女性による運動が立ち上がったおかげで、本当にレズビアンの人たちがそれを隠れ蓑にしてカミングアウトできた、とかいう側面もないことはないけど、基本的にレズビアンフェミニズムというのはレズビアンとは関係ないと思った方がいい。で、それは時代的にも過去のもので、フェミニズム業界内ではまだたまに見かけるけど、業界人でもないカカシさんがそんなにかれらに遭遇しているとは思えないのね。だからカカシさんはレズビアンフェミニズムが何であるかも知らずに、レズビアンフェミニストではない、ただのフェミニズムを主張するレズビアンのことを「レズビアンフェミニスト」と呼んでいるんじゃないかな、と想像する。
 ま、どっちでもいいけどさ。

masckaさん自身は自分に張られた左翼というレッテルが気に入らないらしいが、左翼が自分が左翼であることを認めたがらないのは何も今始まったことではない。

 「左翼は自分が左翼であることを認めたがらない」というのが事実であったとしても、だからといって「自分が左翼であると認めない人は左翼である」とは言えないよね。わたしが左翼だというなら、どういう点が左翼的かを指摘してもらえないかな。その理由によっては「そういう意味でわたしのことを左翼と言うなら、それはその通りです」と答えるかもしれないけど、漠然と「左翼だ」と言われても困るわけ。
 あと、「多分共産主義者」と書いているけど、このブログを読んでわたしのことを(リベラルという意味での)「左翼」ならともかく「共産主義者」と思うヒトって、そもそも共産主義ってのを何だと思っているんだろう。このブログにわたしが書いてきた経済学関係のエントリを読めば、少なくとも共産主義者の書いたものでないことくらい分かって良さそうなものでは。
 これもまぁ、定義の問題だとすればどっちでもいいんだけど、左翼とか共産主義者とかレッテルをはるだけで終わらないで欲しいな。

アメリカのフェミニズムはもうずいぶん昔に共産主義の一角であるマルクス主義者に乗っ取られてしまった。

 はぁ?
 フェミニズムの中に共産主義マルクス主義を信奉する人はいるだろうけど、それが多数派とは到底言えないでしょ。自分と違う意見の持ち主はみんなマルクス主義者だという妄想にとらわれていませんか?

ホフ・ソマーズ女史がいうところのジェンダーフェミニズムの支持者はすべて左翼だといって間違いない。私がmasckaさんもその部類だろうと判断するのには根拠がある。

 いやね、定義によってはわたしが左翼だと思われても構わないんだけど(定義によってはわたしを保守だと判断することもできるだろうし)、それ以前にわたしがその「ジェンダーフェミニズム」の支持者だという時点で間違ってるよ。と言うより、ソマーズが言うところの「ジェンダーフェミニズム」は論敵をカリカチュアライズして作り上げた虚構に過ぎないので、それを「支持」するフェミニストなんてどこにも実在しないのね。
 もちろん、ソマーズが「ジェンダーフェミニズム」というレッテルをはりつけることによって批判しようとした対象のフェミニストは実在するわけだけど、わたしはその中にも入っていない。『Who Stole Feminism?』の 79-82 ページあたりにジェンダーフェミニズムに対する非白人女性たちの批判というのが書かれているけど、わたしの立場は彼女たちに近いです。

これはmasckaさんがリベラルでしかも民主党支持者のホフ・ソマーズ女史のことを『保守派の哲学者』とか『極右と言ってもいいくらい超保守的な論客』などと書いているからで、ホフ・ソマーズ女史が極右にみえるということは自分が極左翼ですと白状しているようなものだからだ。

 だったら、わたしのことが左翼に見えるあなたは右翼なんですか? もちろんそういう場合もあるだろうけど、必ずしもそうではないでしょ。その程度のことを「根拠」として、「こいつは左翼だ」みたいに勝手に認定しないでください。
 わたしは少なくともソマーズの本をきちんと読んだうえで彼女の立場を判断しているけど、あなたはわたしが書いたものをほとんど読んでいないでしょ。

そのmasckaさんが熱心に特別のブログまで作って宣伝しているバックラッシュという著書はジェンダフリーという概念を批判した人々への反論を集めたもので、四人の著者による共作だが、その一番最初に乗ってる著者の上野千鶴子教授などは完全なマルクス主義者なんだから笑ってしまう。

 あのさ、どこからツッコミ入れればいいのか迷うんだけど。
 1)熱心に宣伝したのは、自分が関わった本が売れて欲しいからです。
 2)その本にはジェンダーフリー批判への反論もあるけど、ジェンダーフリー概念を批判した論文も入っている(そして、そっちの方が明らかに説得力がある!)。もしカカシさんがジェンダーフリーに反対するフェミニズムを待望しているなら、この本こそ読むべき。
 3)その本の著者は10人以上いる。上野ら4人の名前が上にあるのは、人目を引く為に出版社がやったこと。ちなみに、本書発売直後に、わたしは誰よりもはやく上野千鶴子氏の文章をブログで批判した。
 4)マルクス主義フェミニズムって、マルクス主義を徹底批判するフェミニズムのことなんですが。あと、上野は「ジェンダーフリー」概念に反対で、「男女平等」を掲げる、まさにソマーズが言うところのエクィティフェミニストなんだけど(笑)
 なんかもう、どーしよーもないなぁ。

以前に私はアメリカのフェミニスト団体の代表的な組織であるNational Organization for Women(全国女性機関、NOW)の話をしたことがある。彼女らの表向きの目的は男性社会で犠牲になっている女性人権の保護ということになっているが、セクハラの代表者のようなビル・クリントン大統領のセクハラ事件ではクリントンを批判するどころかクリントンにセクハラされたという女性犠牲者たちを嘘つきだとか田舎者だとかいってさんざん糾弾したし、女性迫害では最たるもののアフガニスタンタリバンやアルカエダへの批判など全くしない。アメリカ国内でも何度かおきているイスラム教父親による娘への名誉殺人などについてもNOWは完全に沈黙を守っている。
 何故女性運動の組織が女性迫害をするイスラム教徒を糾弾しないのかといえば、今現在彼女たちがもっとも嫌うアメリカの保守派たちがイスラム教テロリストと戦争の必要性を唱えているからである。左翼の彼女たちは自分らの政治的思想が優先して女性の人権を守ることより、保守派政治家と戦うことしか頭にないのである。左翼に女性運動を乗っ取られることの弊害がここにあるのだ。

 クリントンのセクハラ疑惑云々については、米国の保守系メディアで繰り返し宣伝されたデマ。疑惑が「クリントンを引きずりおろす」ことを公言していた保守系政治雑誌で(クリントンは殺人犯で麻薬密輸犯だという事実無根の記事に混じって)まず報じられ、原告による記者会見が保守系団体のスポンサーで開かれた時点で、NOW は支援の可能性を探ろうと原告側弁護士と接触を取ったけれども、支援を断ったのは原告側の方。その後 NOW は(事実がはっきりせず、原告との接触もできなかったため)クリントンを一方的に批判することはなかったけれども、クリントンが現職大統領であることを利用して裁判を遅らせようとしたことについては「原告に裁判に訴える機会を与えるべきだ」として批判していた。 NOW が原告のことを「嘘つきだとか田舎者だとかいってさんざん糾弾した」証拠があるなら、それを見せて欲しい。
 NOW がタリバンイスラム原理主義による女性迫害を取り上げていないという点も、まったくのデタラメ。これは単純に、NOW のウェブサイトを「taliban」あたりで検索すれば、女性迫害についての記事や NOW の年次総会で可決されたタリバン非難決議やらがいろいろ出てくる。よくもまあこんなにすぐにバレるデタラメを書けるものだ。ていうか、わたし NOW 嫌いなのに、あんまりデタラメ書くから擁護するハメになっちゃった、どーしてくれる。

 彼女たちの本当の目的は男女平等などではなく女性優遇による左翼主義の促進にあるのだ。日本のジェンダフリーを押している人々のことを知れば知るほど、日本でも全く同じことがおきていると私は確信する。
 例えば、バックラッシュの著者のひとり小谷真理だが、彼女は日本SF作家クラブの会員だとあり、英語の著書などの翻訳家でもある。しかし彼女が翻訳した著者のサースモンは有名な性転換(男から女へ)作家である。また宣伝ブログで特集されている筒井真紀子という翻訳者もケイト・ボーンスタインというやはり男から女へ性転換した作家の隠されたジェンダーを訳している。

 あのー、トランスジェンダーの作家を紹介したら、どうしてそれが左翼主義の促進になるんでしょうか? マジ分からん。
 そりゃまー、小谷さんのあの文章は、『バックラッシュ!』にいらないと思うけど。

 アメリカのフェミニズムでもそうなのだが、女性運動のはずなのに、性(セックス)に関する話題がやたらに出てくるのはなぜなのだろう。

 セックスって、多くの人にとっては大事な話じゃないですか?
 性の話を避けて通る必要性がどこにあるのかな。さらに、セックスがどう左翼主義になるのかも分からんし。

 だいたいフェミニズムトランスジェンダー(性転換手術を受けた人)だのmacska教授専門のインターセックス(男女両方の性器を保持する人)だのレズビアンの話が出てくること自体不思議である。

 フェミニズムはいわゆる「女性」だけでなく、人種も階級も障害も国籍も扱いますがなにか。
 それらを扱わずに、すべての女性のためになる運動ができるわけがないっての。

 つまり、人間には持って生まれた女性らしさとか男性らしさというものがあるのではなく、性器によって社会がその役割を押し付けることから違いが生まれるという考え方が根本にあるため、自分の性に混乱のある人たちの意見が注目されるのではないだろうか。

 あなたが一番混乱しているように見えますが… そもそも一般的には、フェミニズムにおいてトランスジェンダーなんて全然注目されてないって。むしろ注目されていないからこそ、わたしは筒井さんの活動とかを評価して、もっと注目されて欲しいと取り上げたりしているんだけど。