ブクマコメント回答2:「比べるもののないような悪」を比較対象とすることについて

 ついでに(って言うと悪いか)他の方のブクマコメントにもお応えしちゃいます。

2008年09月09日 esbee 山形浩生, 興味深い NGOや弁護士の売名に利用されてる、という批判かも。実際現地を度々訪れたりポル・ポト訳してる山形氏なら事情に通じてるだろうし。/際限なく追及することに否定的な理由ってなんだろうか。教えてほしい

 稲葉さんも言ってたけど、何か報道されていない事情を知っているなら、それを書いて欲しいところ。でもあの文章を読む限り、カンボジアを出国する直前にニュースで見た、というだけの気がするけど。
 「クメール・ルージュの犯罪を際限なく追求することに否定的な理由」は、あれだけ内戦が続いた国であらゆる戦争犯罪や人権侵害の責任を追求すると、国民がお互いに過去を暴き立てて対立することになり、せっかくの平和がかえって崩れてしまうのではないか、ということ。わたし自身はカンボジアの現状についてよく知らないのでこの件については特に意見を持たないけど、仮に今回の法廷はかえって危険だからやめた方が良いと思っていたとしても、人権侵害を訴え出ている人を侮辱していいことにはならないと思う。

2008年09月09日 kuborie 山形浩生, アジア, 犯罪, 人権, 裁判, MTF この程度で「クメールルージュと同じ傾向」と書いてしまう人もかなり危ないと思う。/MtFトランスジェンダーやっているものですが、確かに、数百万の死と過ぎ去った歴史と比較すれば些細な問題。オレって変スカ?

 「程度は全然違うもののクメール・ルージュの行為と同じ傾向の敵意の表現だし」という部分については、どう書くか悩みました。クメール・ルージュの犯罪を比較に出すこと自体が不謹慎であり被害者に失礼であるというように解釈されることは予想できましたが、Sotheavy さんの「倫理的(ジェンダー的)逸脱」を容認せず、お前は男である、お前にとっての自己認識など認めない、というシンボリックに暴力的な態度を示したことの共通性は指摘すべきであると考えました。それが不適切だと感じる人はいると思いますが、それも意見だと思い受け止めます。
 まぁついでに言っておくと、山形さんは最近ポル・ポトについての本を訳した関係か、どんな話でも「それはポル・ポトと同様だ」という批判に結びつけて叩くということをやっていて、kuborie さんにはわたしに文句を言う資格があるとしても、山形さんは「クメール・ルージュを比較に出すな」とは言えないと思う。以下参照。

あと著作権では、一般には名曲と思われているけれど、よく考えるとポル・ポト状態をあからさまに称揚している恐ろしい曲である ジョン・レノン Imagine(だって imagine no possession, imagine all the people living for today 等々まさにポル・ポトのスローガン)がどっかのドキュメンタリーの背後で流れていたのをオノヨーコが訴えていたんだけれど、オノヨーコ敗訴。
最近の噂 - 2008/6/7

だが本書のおそろしさは、そのダメな部分と無関係ではないんだけれど、でもそれとは別に存在している。本書は、ポル・ポトの、文革の、そして無数の(原始以来の)共産主義がもたらした、無数の弾圧と抑圧の根拠となってきた恐ろしい思考が、まったく無防備に立ち上がってくる瞬間を記録した希有な本なのだ。
『はだかの王様の経済学』は戦慄すべき本である

そしてそれにはすさまじい社会変革、ちょっとやそっとではすまないとんでもない革命が要求される。おそらくその前にあっては、ポル・ポトの変革でさえ甘く見えるだろう。そのためのコストはどのくらいだろうか?
GDP というものの考え方について

 コメント欄では、Ry0TA さんが次のようなことを書いている。

クメール・ルージュ体制期の傷痕に現在どのように向き合うべきかという問題の中で、Sou Sotheavyさんの行動がどう位置づけられるのか(「場違い」なのか)は僕には分かりませんが、トランスセクシュアルに対する組織的迫害の事実の明示と犠牲者の名誉回復がなされなくともよい、「さらなる嘲笑と屈辱」を受けねばならないこととは思えないのですが・・・

 これにはわたしも同意。Sotheavy さんの訴えをいま行なわれている法廷の場でどのように扱うべきかはわたしには分からないし意見を持たないけれども、彼女が何も声を挙げない方が良かったとは思わないし、彼女を侮辱していいとも思わない。
 ところで、「シスジェンダーの特権リスト」翻訳ありがとうございました。