田中康夫がアクセスで嘘つきまくり。

 TBSラジオアクセス」(12/08/2008) で、新党日本代表の田中康夫さんがゲストに生物学者福岡伸一さんを招いて、国籍法とDNA鑑定について話していた。その様子は、ニコニコ動画に音声がアップされている。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm5491207

 序盤から田中康夫さんがものすごい勢いで嘘をつきまくっている。以下は田中発言。

 なんと法務省森英介法務大臣っていうのは、その、いわゆる日本国籍を取りたいという人を、タクシーと同じで届け出制で、もう認可許可ではなくて、書類持ってくればオッケーと。

 言うまでもなく、日本国籍を取りたいという人なら誰でもいいわけではないし、書類を出すだけでなく要件を本当に満たしているか厳しい審査を受けるのだから、こんなに酷い話はない。

 で、その場合に、指紋を採取することは人権侵害ではないけれども、DNAを検査することは人権侵害であって。そしてDNAはですね、すり替えがあるから不確かなものであって、子どもと親が一緒に撮った写真を、このデジタルのご時世に、写真こそ信頼できるという、まると学会のようなことを法務省法務大臣が言っていて。

 付帯決議によって写真の提出を求めるという要件が付いたのは、国会における政治的な取り引きの結果であって、法務省が言い出したことではない。また、父親が非協力的であったりして写真が提出できないこともあるので「できれば」判断の材料の一つとして提出を求めるというだけであり、要件とされたわけでもない。一方、田中さんは付帯決議ではなく法律そのものにDNA検査を必須要件にすることを求めていたのだから、全然違うレベルの話をしている。

 大部分のマスメディアは裁判員制度でしこたまいろんなシンポジウムとかでお金が入り新聞社もみんな黙り切っている中で、みなさんもご存知のようにわたしもこのあいだ法務委員会で質問して、わたしと国民新党だけでなく田中直紀さんていう、田中眞紀子さんのご主人とか、あるいは川田龍平さんという、まさに厚生労働省のですね、とんでもない瑕疵によって被害を受けた人も反対したんですけどね。

 裁判員制度の導入で新聞社が荒稼ぎしているのかどうかは知らないけど、まったく関係ない話では。

 この法律は、DNA鑑定制度をきちんと導入することと、扶養の義務というものを明記を18歳までするということをしないと、とんでもないですね、あの、偽装認知奨励法であったりですね、人身売買促進法であったり、あるいはペドフェリアと呼ばれる小児性愛黙認法であったりですね、とてつもない話で、これはもうイデオロギーの右とか左の話じゃない、人間の話だってやったんですけどね。

 DNA検査は父親の協力がなければ不可能。非協力的な父親(と名指しされた人)に認知を求める法的手段はあるけれども、そのためにDNA検査を強要する手段は存在しない。仮にそうした制度を作るなら、それは国籍法ではなく認知制度そのものを改訂すべきで、「両親が婚姻しておらず」「一方が外国籍で」「出生前に認知されなかった」子どもにだけ特別な負担を負わせるのは不公平。
 扶養の義務も民法で既に決められているので、国籍法に書き込むようなものではない。子どもの人身売買の懸念については、法務省の審査を受けたうえで自分の戸籍に子どもを載せ、扶養義務や教育義務を負うような制度は、子どもの性的虐待をしようとする人はむしろ避けるはずで、危険が増えるとはまったく考えられない。
 これらのことは、この問題について少しでも調べればすぐに分かること。もし本当に人身売買が心配なら、人身売買の問題に取り組んでいる人の話に少しは耳を傾けて欲しい。
 さらに、ゲストの福岡伸一さんとのやり取り。

福岡伸一
 DNAというのは、まあある種のバーコードでして、親から子に伝わっていくものですね。だから、親のDNAと子どものDNAを比べれば、バーコードの様子が分かりますので、関係性を見るためには非常にいい道具なわけです。指紋とか、顔とかは、まあ似てはいるけれど、同じものはきませんよね。
(略)
ただ、DNAはあくまで関係を比べることに有効性があって、その本人とかあなたが日本人であるとか、あなたがロシア人であるとか、それをDNAによって言明することはできないんです。

田中康夫
 なるほど。つまりよくね、DNA鑑定なんてけしからんって未だに言っている視野狭窄な人権団体の人がいるんだけども、その人たちは、DNAを検査することは、まるでヒットラーユーゲントのような、人種差別や、そういう具合に繋がると言っているけど、違うんですね。つまり、この人とこの人が親子の関係かどうかはDNAで見れるけれども、それは、もしかすると、じゃあ…

福岡伸一
 その人の出自を探るとか、何か民族性とリンクしているというのは、幻想なんですね。だからやっぱりそこには、DNAをめぐる神話と真実が如実に表れていて。たとえば嫌がるものを無理矢理ね、採取して調べるという点が人権侵害であるということにおいては、指紋を無理矢理押させるのと、無理矢理DNAサンプルを取られるというのは、同じく人権侵害だと思います。ですから、その用途をですね、非常に限定すれば、親子鑑定に使うという点に関しは、有効なツールだとわたしは思いますけれども、そのために、そのことが濫用されないいろいろなバウンダリー・コンディションを整える必要があると思います。

田中康夫
 なるほど。

 福岡さんはやや慎重派のようにも見えるけれど、「濫用はいけない」なんてのは誰だって思いつく当たり前の話。「関係性を調べるために、DNA検査は有効」だって、わざわざ生物学者に出てきてもらわなくても分かりきった話であって、まあ田中さん程度の理解の人に「日本人のDNAなんてものがあるわけじゃないですよ」と示すことに意義があると言えばあると思うけど、それだけ。
 科学者としては、「〜の目的のためには、〜が有効」という発言は正しいのだろうけれど、そもそもの問題設定が間違っている。一番の問題は、たとえば出稼ぎに来ているフィリピン人女性と日本人男性のあいだに子どもが生まれた時に、日本人男性が何の責任も取ろうとしないために、本来なら取れるはずの日本国籍を取れずにいる子どもたちが大勢存在していることだ。もちろん不正を防ぐということも大事だけれども、不正防止を自己目的化して、必要とされる救済が行なわれない−−男性が非協力的な場合、子どもが国籍を取得できなくなる−−というのでは意味がない。最高裁の判決により、両親が既婚かどうかによって子どもが国籍を取れたり取れなかったりするのは認められないので、これでは法改正する意味がない。
 また、仮に男性の「やり逃げ」を阻止するために、強制的にDNA検査を受けさせることができる制度を作るとした場合、その対象は外国人女性とのあいだに子どもをもうけたとされる男性だけでなく、すべての男性に及ばないとおかしい。外国人女性はDNA検査によって父親に認知を強制させられるのに、日本人女性にはそれができないというのはおかしな話だもんね。いずれにしても認知をめぐる法律において決めるべきことで、国籍法の問題ではない。さらに言うと、状況証拠や証言から親子関係が明らかなのに、父親が失踪していたり死亡していたりでDNA採取ができなければ、それだけで子どもの国籍を否定できるのか。
 田中さんはDNA検査に反対する側を「視野狭窄な人権団体」と決めつけ、「DNA検査は人種差別に繋がる」という架空の批判に反論しているけれど、そんな単純な話はしていない。「両親が婚姻しておらず」「一方が外国籍で」「出生前に認知されなかった」子どもにだけ特別な負担を負わせることが法の下の平等に反し違憲状態であり、DNA検査を要件とすることはその救済になっていないから、人権侵害だと言っているのね。
 せっかくテキスト起こししたので、次のエントリに田中さんと福岡さんの発言全体を載せておく。