「在日はみな朝鮮系、韓国系日本人」になるために

 先日も紹介したけれど、id:k3alt さんのブログがとても興味深い。内容もそうだし、形は違うけれどもわたしもアイデンティティが自明でない状況で生きてきたので、いろいろ感じることがある。で、今回はエントリ「日本人って何だろう」にコメント。

 僕個人の考えとしては、在日はみな朝鮮系、韓国系日本人となるべきだと思う。抵抗を示す在日コリアンもいるだろうが、民族と国籍の同一視を止めればいい。それは日本社会にも言えることだ。日本人と言えば民族的にも国籍的にも日本人であると言うニュアンスや捉え方は改めるべきで、国籍が日本人でも民族が違う○○系日本人という存在を許容する必要がある。許容するってのは、○○系ってだけで差別しないことだ。
 そうなるためには帰化条件を大幅に緩和するか、出生地主義を取り入れるのがいい。特永所持者は帰化を届出制にしてもいいんじゃないかな。日本が乗っ取られる!とか言っちゃってる人、大丈夫だよ。これで「在日特権」ってやつは無くなるだろ?
http://d.hatena.ne.jp/k3alt/20090501/1241148995

 そう、「在日特権」とやらを無くす一番の方法は、日本社会が「〜系日本人」の存在にもっと寛容になり、「帰化条件を大幅に緩和するか、出生地主義を取り入れる」ことに決まっている。そのように主張しないところからして、在特会の真の目的が制度的な「特権」(それがなんであれ)を解消することではなく、単に偏見と差別意識をぶちまけるものであると分かるのだけれど。
 さて、在日三世の k3alt さんが言うなら上の発言だけで十分なんだけど、生まれたときから日本の国籍を与えられていた立場からは、もっと先に言うべきことがある。それは、ここで提案されているような施策が円滑に実施されるためには、そのまえに日本政府が在日コリアンに対して一度正式に謝罪しなければいけない、ということ。ここで問題としているのは、戦争責任でも植民地支配責任でもなく、「戦後責任旧宗主国(旧帝国)責任」と呼ぶべきものだ。
 日本政府が謝罪しなければいけないこと、それは、終戦後、それまで日本国籍を持っていた朝鮮半島出身者の国籍を、かれら一人一人の同意なく一方的に奪い取ったことだ。それが「在日コリアン」という特殊な「外国人」を生み出した原因だ。それはすなわち、戦後の日本が平和的な民主国家として再出発するにあたり、それまで普通に存在していた「〜系日本人」を疎んじ、植民地主義と戦争の悪夢とともにその記憶も存在も消し去ろうとしたことを意味する。その過去を忘却して、いまさら「在日コリアンは朝鮮・韓国系日本人」になれ、と押しつけようとしても、そりゃ反発されるはず。
 そもそも、社会的な抑圧を受けているマイノリティが、抑圧されているがゆえに見つけた居場所や生み出した知恵や文化というものは、そう簡単にないがしろにできない。たとえば、アフリカ系アメリカ人の伝統的な家庭料理「ソウルフード」は、過酷な奴隷制の中で白人たちの食べ残し・使い残しを寄せ集めて生み出されたものだが、それは奴隷制の産物であると同時に、かれらの伝統であり、抵抗と生存の証しでもある。もう奴隷制はないのだからそんなものを食べるのはやめるべきだ、などとは誰も言えない。
 在日コリアンが持つ「特別永住資格」という特殊な地位も、もともとは日本政府による一方的な決定によって生み出されたものではあるけれど、自分たちが圧倒的少数者として扱われる日本において、民族的アイデンティティと一定の発言力を保持するための道具となっている。「〜系日本人」を認めない国において、みんなが一斉に帰化してしまえば、朝鮮・韓国系の存在なんて今よりも埋没してしまう。
 長期的に考えれば、いまのまま在日○世というかたちで特別永住資格が延々と続くよりは−−あるいはそれよりありそうな結末として、帰化する人が年々増え続け、そのまま「日本人」として埋没するかたちで近い将来に「在日」が消滅してしまうよりは−−在日コリアンが「朝鮮・韓国系日本人」として、埋没せずに生きられるような社会を目指すことが正しいように思う。でも、それは在日コリアンにとっては、「朝鮮・韓国系日本人」になったつもりが、いつのまにか「単一民族国家・日本」に埋没してしまうという、一種のリスクも孕んでいる。
 それだけのリスクをマイノリティの側に強いてしまうのであれば、日本人であることを自明としているマジョリティの側は、かれらの信頼を得るための行動を取らなくてはいけない。つまり、「在日はみな朝鮮系、韓国系日本人となる」ためには、まず「在日」が生まれた歴史的経緯を見つめ、日本政府の責任−−朝鮮半島を植民地として支配し、さらなる侵略戦争を展開した大日本帝国の責任ではなく、「戦後の」日本国の責任−−に、まずきちんとけじめを付けるべき。具体的な施策を実施するのは、そのあとだ。
 とにかく、そういう手順を踏まえてやるのがいいとわたしは思うんだけど、もしそれでまた謝罪するかしないか揉めるようなら、一気に全面的に出生地主義を導入するのもいいかもね。てゆーか、そんなに在日コリアンに特有の歴史的経緯を忘却したいなら、せめてそれくらいラディカルな改革をやってよねってこと。
 とりあえず、k3alt さんのところのコメント欄で変なのが登場しているので、ちょっとカウンターバランスに書いてみた。