「集団分極化」と「サイバーカスケード」

 本家にサンスティーンの『Republic.com 2.0』に批判的な感想を書いたあとで、そういえばサンスティーンが日本ではどういう扱いをされているのかなぁと思ってちょっと見たところ、疑問に感じたこと。『Republic.com』(『インターネットは民主主義の敵か?』)の中心的なコンセプトとなっている「集団分極化」「サイバーカスケード」という言葉の理解がなんだかおかしい。
 例えば、これ。

サイバーカスケード (cyber cascade) は、インターネット上における現象のこと。集団分極化 (group polarization) ともいう。アメリカの憲法学者キャス・サンスティーンが提唱した。
Wikipedia: サイバーカスケード

 この記事、ised@glocom (情報社会の倫理と設計についての学際的研究) のキーワード集にある記述と酷似しているのだけれど、どちらが元でどちらがコピーなんだろうか。 ised@glocom のサイトには「文中の ised キーワードと注釈は、ised@glocom スタッフによるものです」と書かれているのだけれど、もしそれが事実だとしたら Wikipedia にコピーしちゃっていいんだろうか。逆に Wikipedia がオリジナルだったとしたら、Wikipedia の記事は GNU Free Documentation License で再利用が許可されているけれど、それを ised@glocom スタッフが書いたことにしちゃうのはライセンス違反になるのではないか。もしかしたら両方とも同じ人物によって書かれた(著作権者本人が異なるライセンスで公開しても問題はない)可能性もあるから、問題があるとは限らないけど。
 そんな事を言いたいんじゃない、わたしが取り上げたいのは、これらの解説において「集団分極化」と「サイバーカスケード」の意味が区別されていないこと。まぁ、もとはと言えば「カスケード」という言葉をきちんと定義せずにいきなり使い出すサンスティーンのせいだとは思うんだけど(『Republic.com』のどこを見ても、明示的に定義していない)、集団分極化とカスケードは関連した、異なる概念なのでそのあたり注意。より正確な解説は、はてなダイアリーのキーワードの方にあった。

 サンスティンは、集団分極化の現象は、社会的カスケードと呼ばれる現象と密接に関係しているという。
 私たちは、通常、生活や政治、環境、法、経済などあらゆる情報について、本当に確かな情報を持ち合わせていないことが圧倒的に多い。例えば、地球環境問題は本当に深刻か?といった事柄に正確な答えを出せる市民はいない。
 情報の不確実性を補うのは他者の言論や行動である。
はてなダイアリー: サイバーカスケードとは

 ここで説明されている通り、社会的カスケードとは、周囲の多数の人々の考え方に影響を受けて内面化することで、不確かな情報が一斉に広まっていく仕組みのことを指す。つまり、もともと特に意見を持っていない人々や、多様な意見を持つ人々が、周囲の言動に影響されて一方向に流されるのがカスケード。それがインターネットという情報拡散装置のおかげで一斉に起きることを、サイバーカスケードとよぶ。
 集団分極化とは、似通った考え方やアイデンティティの持ち主同士がコミュニケーションを取ることで、あらかじめ共有された考え方やアイデンティティを強化するようなコミュニケーションや情報ばかりが流通し、結果としてより強固にその考え方を信じるようになること。
 というわけで、サンスティーンの言う通り両者は明らかに密接な関係にあるけれど、「サイバーカスケードのことを集団分極化ともいう」という解説は完璧に間違いなので、そのあたり押さえておいてくださいね。