いまさらだけど、在特会デモがサイアクだったので、カルデロン一家問題について少しだけ言っておく。

 問題の概要については、e-politics による良質のまとめを参照。日本で生まれ育った中学生の子どもは在留特別許可を得ることができたけれども、両親は許可を得られなかったので、今月中にも両親だけ出国することが決まっている。
 のに、その数日前というタイミングで、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)のバカどもが、わざわざ一家の住んでいる地域に押し寄せて、「犯罪外国人を即刻叩き出せ!」と叫ぶデモをやった。その様子はネットで中継され、わたしも少しだけ観ることができたのだけれど、既に夫妻の出国を受け入れたカルデロン一家が家族そろって限られた最後の時間を静かに過ごすことすら認めないというのは、主義主張以前の問題として、醜悪すぎる。

  

 さて、それはともかくとして、この問題についていまさらだけどちょっと書いておきたい。もっとホットなうちに書かなかったのは、わたしが日本の話題から取り残されているからです、はい。
 そもそも在留特別許可というのはなにか。不法入国・不法在留により、不法滞在状態(強制送還の対象)となった外国人のうち、特別な事情があって強制送還をするのがふさわしくない、と判断された人について、政府の判断で在留を認めるという制度のこと。だから「不法滞在者に在留特別許可とは何事か!」というのは大きな勘違いで、在留特別許可というのは不法滞在者のためにこそある。
 では、どうしてそのような制度があるのか。不法滞在は違法なのだから、違法行為をおかした人を守るような制度はおかしいのではないか、と思う人もいるかもしれない。でも現実は、なにごとも法律だけでスパッと切れるようにはできていない。不法滞在をしている人も社会で生活を営む以上、家族をもうけることもあれば、地域や職場で必要とされるようになることもある。ビザのオーバーステイなどの例も含めると、不法滞在が発覚するまでには、長い年月が経過することも多い。
 もうちょっと話を進めて、そもそもなぜ不法滞在者が存在するのか。一般的に言えばそれは、日本と他の多くの国とのあいだに大きな経済格差があり、生活が苦しいので、日本に出稼ぎしてでも(あるいは移民してでも)より豊かな生活を手に入れたい、より多くの機会を子どもに与えたい、という人がたくさん存在しており、日本の産業もある程度そうした労働力に依存しているけれども、合法的に日本に居住し労働することが法的に困難だからだ。
 これは、悪いのは貧困や経済格差でありカルデロン夫妻が不法滞在したのは構わないとか、日本は国境を取り払って誰でも自由に入国させるべきだと言っているのではない(その逆を主張しているわけでもないけど)。不法滞在者の存在の裏には、大きな経済的な構図があり、またその個々の人にも複雑な背景や状況があると言いたいのだ。つまり、不法だから犯罪者、犯罪者だから出て行けという、単純な論理で済ませられる話ではない、ということ。在留特別許可という制度があること自体、法律自体が「違法・適法だけで単純に現実を切り分けることはできない」ことを前提としている。
 カルデロン一家の件そのものについて言うなら、実際に地域に溶け込んで長いあいだ生活している実態がある以上、わたしは一家全員に在留特別許可を認められれば良かったのにな、と思う。と同時に、在留特別許可を認めるべきではない、という主張があることも、理解できなくはない。どういう状況であれば許可するべきなのかは一概に言えることではなく、今回の件に関しても「認めてあげればいいのになぁ」とは思うけど、「絶対認めるべきだ」とする論拠まではわたしには思い当たらないもの。
 でも、在留特別許可というオプションはアリかナシかというならアリだということ、不法滞在者は問答無用で出て行けという言い方はおかしいということ、そしてなによりも、夫妻の国外退去を受け入れて残った数日を家族そろって過ごしているところに、拡声器を持って大勢で乗り込んで罵声を浴びせる連中はサイテーだということは、かなり自信を持って言えると思う。