サブプライムローンの根本的な問題は「返済能力の低さ」ではなく「頭金ゼロ」

 日本語の経済解説記事やブログ記事なんかをちょっと読んでたんだけど、「サブプライムローンって、どうしていくらなんでもローンの支払いもできないような奴に貸すのよ!?」という疑問を持っている人が多いような気がしたので、分かりやすく解説しておく。そんなのいらんよという人は読まないで結構。
 住宅購入のためのサブプライムローンというと、「収入の少ない人に貸し付けるため返済不能に陥る危険が高く、その分利子が高い」というところまでは分かると思うけれど、「収入が少なく返済不能に陥りやすい」という部分よりも、「預貯金が少なく頭金が払えない」というポイントの方が重要。いくらサブプライムローンだって、基本は返済できることを前提に貸し出すわけで、本当に収入が全然足りていない人に貸したりはしない。
 米国でも伝統的に頭金は二割が基準だったわけだけれど、金融機関がまとまった頭金を必須とすることには理由がある。どんなに収入があったとしても返済不能になる危険はあるわけで、それでも住宅ローンであれば最悪の場合家を売れば現金ができる。もちろん、急いで売る必要に迫られた場合、買い値より安い値段でしか売ることができずに損が生じる危険もあるけれど、頭金として既に二割払っていれば、多少は元より安く売れてもローンを完済できる。
 たとえば、頭金400万円を出して2000万円の家を買い、借金1600万円のうち100万円だけ払った段階で事情が変わって毎月のローン返済ができなくなったとしてみる。この場合、残る借金は1500万円だから、2000万円で買った家が最低でも1500万円で売れれば、借り手は家は失うけれども借金ゼロでまたやり直せる。借金の完済が可能なわけだから、金融機関もまったく損をしない。
 ところが同じシナリオ(2000万円で家を購入、100万円払ったあとに返済不能)で頭金ゼロだった場合、家の売却価格が1900万円以上でなければ家を売り払っても借金が残る。どうしても払えずに破産すれば金融機関に損失が生じる。つまり、借り手に頭金を払わせることは、金融機関にとっていざという時に損を出さないためのバッファーとして機能する。
 ここでサブプライムローンの話になるわけど、ここのところ米国は不動産ブームと言われていて、ほとんどの地域で住宅価格は上昇し続けていた。つまり家の売却価格は放っておいても上昇するわけで、そうなると借り手に頭金を払わせずとも、いざという時には家を売らせれば十分ローンの回収ができるということになった。上のシナリオで言うと、2000万円の家が売却時点で1900万円以下になるかもしれないと思うから心配なわけであり、2200万円とか2500万円と上昇していくのであれば頭金ゼロでも取りはぐれる危険から免除される。
 これがあまりにうまくいったので、金融機関はさらに頭金をゼロどころかマイナスにするようなローンを提供しはじめた。すなわち、将来の不動産価格上昇を見越して、上昇する分を住宅購入費に上乗せして借り手に貸し付けるということをやった。たとえば、2000万円の家なら一割上乗せして2200万円を貸し出し、借りた側は余った分を消費に回した。当然、返済がより困難になるので返済不能に陥る危険は増えるけど、それでも住宅価格が上昇しさえすれば、仮に過剰な借金のせいで借り手が返済不能に陥って家を失ったとしても、金融機関はまったく損をしない。しかし住宅バブルが崩壊すれば、全ての前提が吹き飛んでしまう。
 いろいろなサイトで解説されている、ローンの複雑な証券化だとか、わけの分からないデリバティブ金融商品だとかは、その先の話。去年の夏に住宅バブルが崩壊してから一年以上も何もしなかった政府の無為無策に助けられ、それらは確かに金融危機を激しく深刻化させたけれども、根本的には住宅バブルが永遠に続くと思い込んだのが混乱のもともとの原因だった。


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 ちなみに、頭がお花畑じゃなかった苺畑の人は、マケインの宣伝に乗せられて ACORN など貧困者団体が金融機関にサブプライムローンを貸し出すよう強要したのが金融危機の原因だ!みたいなこと言ってたけど、金融機関がそう簡単に貧困者団体の言いなりになるわけがない。実際のところ、金融機関は貧しくて今すぐ現金を必要としている人に「ローンを組んで家を買えば消費に必要なお金が手に入りますよ」と無茶なローンを組ませて、返済が滞ると家を売却して融資を回収してあとはしらんぷり、ということを続けていたので、ACORN などの団体はそれを批判してきた。
 そもそも、支払い能力のない人に対する住宅購入資金の貸し出しを強要しても、借りた人は結局返済できずに家を失うのだから、ACORN がそんなことをするわけがない。実際には、ACORN やその他の貧困者支援団体は、金融機関と共同で住宅購入を支援するプログラムを実施していた。たとえば人々が住宅ローンの仕組みをよく理解して無理のない返済スケジュールを決められるようなセミナーを開いたり、本来なら返済できるのだけれどたまたま出費がかさんでローンの返済に困る月が出た場合に短期融資を受けられるようにしたり、返済計画の改訂交渉を支援したり。
 こうした活動の結果、ACORN のプログラムに参加していた人たちは、収入が平均的な住宅購入者よりかなり低かったにもかかわらず、普通の(プライム)ローンを受けた人と同じ確率できちんと返済することができた。この事実一つをとっても、ACORN などの団体に金融危機の責任があるという主張はおかしなことが分かる。